西洋美術研究 |
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2000年9月30日発行 2000年9月/A4判変型並製/216頁/ISBN978-4-88303-070-5 |
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圀府寺司 封印を解く
加藤哲弘 ヴァールブルクとベレンソン 現代の美術史学の理論形成に大きな影響を与えた2人のユダヤ系美術史家、ヴァールブルクとベレンソンには、彼らがフィレンツェで仕事をしたこと以外に、重要な1つの共通点がある。それは、彼らが「非ユダヤ的ユダヤ人」であることである。この論文では、この2人の同化と非同化の戦略を、彼らのテキストとコンテキストの分析を通して比較することで、多様化する現代社会における芸術研究のあり方を考える。 キース・モクシー パノフスキーのメランコリア 北方ルネサンス美術に対して最大級の貢献をしたパノフスキーのデューラー論は、学問的な動機から純粋になされたものではない。むしろ、社会的・政治的な動機から執筆されたものである。とくに《メレンコリアT》は、デューラーのみならずパノフスキーの精神的な自画像として象徴的な意義をもつ。本稿では、パノフスキーの個人的な文化観がその歴史解釈の中に織り込まれ、その理論的な考え方に大きく作用していたことを明らかにする。 大高保二郎 封印された野望 セビーリャ生まれの宮廷画家ベラスケスは画家として、廷臣として、また人間としても模範的な人生を歩んだとされる。そうした人生のピークが晩年、サンティアゴ騎士団のメンバーに叙せられたことであったが、家系の貴族性は遂に証明できなかった。ベラスケス家の真実は何であったのか。彼の芸術上の革新を、平民の出で、“コンベルソ”の可能性が高い彼の出自から改めて考察する。そこに改宗ユダヤ教徒の“知の系譜”が浮かび上がろう。 有木宏二 マラーノの絵画 カミーユ・ピサロは、カリブ海のセント・トーマス島に、かつてイベリア半島を追われたマラーノ(隠れユダヤ教徒)の末裔として生まれた。彼はフランスに渡り、印象主義の先駆者の1人となるが、その重要性は必ずしも正しく認識されているとはいえない。ピサロがその表現の中心に置いたものに「サンサシオン」があるが、そこには長い間培われてきたマラーノの思考様式が繰り返されている。本論は、マラーノとしてのピサロの表現を探る。 ロミー・ゴラン エコール・フランセvsエコール・ド・パリ 第一次大戦後、フランスではナショナリズムと排外主義とが大きなうねりをみせ、政治的社会的生活のみならず美術界にも大きな影響を与えることとなった。伝統の擁護が叫ばれ、「パリ派(エコール・ド・パリ)」という用語の定義も再調整され、外国人画家のみを表すものとされた。そのような文脈のなかで、大戦間期にパリに住むユダヤ人芸術家が置かれていた状況を、同時代の反ユダヤ主義的な美術批評を探っていくことによって明らかにする。 ロビン・ライゼンフェルト 収集と集合的記憶 ドイツのモダン・アートが過小評価されていた初期モダニズムの時代において、ドイツから追い出されたドイツ系ユダヤ人のパトロンが、ドイツ表現主義美術を収集・保護し続けたのはなぜか。本稿では、ポストコロニアルの亡命者たちに関するスピヴァクの言説を枠組みとし、20世紀前半の歴史的文化的背景を考察することで、美術作品収集・保護のプロセスと自己そして民族のアイデンティティ確立との密接な関わり合いを明らかにする。 圀府寺司 ハンス・ルードヴィヒ・コーン・ヤッフェ フランクフルトの同化ユダヤ人家庭に生まれたハンス・ルードヴィヒ・コーン(1915-1984)は、ギムナジウム卒業、ナチス政権成立とともにオランダに移住し、美術史家ハンス・ヤッフェとして歩み出す。ナチス占領下の解雇、逃避行、従軍を経てアムステルダムに戻り、やがてデ・ステイル研究者、現代美術を講じる大学教授となる。この美術史家にとって美術とはどのような意味をもっていたのか。生涯と著作からその思想に迫る。
ジョゼフ・グットマン ユダヤ美術とユダヤ研究 木俣元一 西欧中世キリスト教美術におけるユダヤ教徒の図像的表象 イエジ・マリノフスキー ポーランド近代美術におけるユダヤ的アイデンティティ 川田都樹子 ユダヤ人としてのクレメント・グリーンバーグ
田中正之 L. Nochlin and T.
Garb(eds. & introd.), The Jew in the Text: Modernity and the
Construction of Identity
竹口浩司 語るユダヤ人、語られるユダヤ人 吉松美花/編 文献リストと解題
松井美智子 「エル・グレコ アイデンティティと変容:クレタ、イタリア、スペイン」展(ローマ、1999年) 天野知香 「記憶された身体 アビ・ヴァールブルクのイメージの宝庫」展 (東京、1999年) |