西洋美術研究 |
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2001年10月10日発行 2001年10月/A4判変型並製/206頁/ISBN978-4-88303-082-8 |
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圀府寺司 イコノクラスム : イメージをめぐる闘争
浅野和生 イスタンブール、アギア・ソフィア聖堂のナルテックス・モザイク イスタンブール、アギア・ソフィア聖堂のナルテックス・モザイクの皇帝像は、これまで一般にレオン6世と解釈されてきた。本論では、従来とはまったく違うアプローチを取り、モザイク自体が聖像論争の終結後まもない時期に制作されたと推定したうえで、皇帝を最後のイコン反対派皇帝テオフィロスと同定するとともに、聖母をテオフィロスの立場をとりなした后妃テオドラに、天使を幼帝ミカエル3世に重ね合わせる新解釈を述べる。 木俣元一 聖ニコラウス像を罰するユダヤ教徒 1人のユダヤ教徒が、聖ニコラウス像をむち打つという伝説が、13世紀フランスのステンドグラスに多数登場する。当時の教会から聖像の濫用として排除されようとしていた聖人の辱めの儀式への示唆、イコノクラストとしてのユダヤ教徒、さらに奇跡の証人としてのユダヤ教徒というトポスとの関連から、キリスト教の信仰におけるイメージの制作や礼拝を擁護するという、この図像に見られるポレミカルな側面を明らかにする。 元木幸一 美しく、白い壁 「美しく、白い壁」とは何のことだろう。種明かしは、本文の楽しみにとっておきたい。いずれにせよ、小論はドイツ語圏の宗教改革時代における画像破壊(イコノクラスム)を、宗教改革者たちの画像論との関係から追究する試みである。対象にする都市は、ルターの活躍したヴィッテンベルクと、ツヴィングリのチューリヒ。さらにイコノクラスムを描いた版画の図像学的意味、メディア論的意味をも考察する。 ディヴィッド・フリードバーグ 隠された神 トレント公会議において、画像の位置づけ、利用法が規定されたのを受けて、ヨハヌス・モラヌスらカトリックの著述家たちは、画像の誤用と乱用を戒める多くの書を刊行した。しかし、この種の禁令はほとんど効果がなかった。その主たる理由は、禁令が要求する、デュルケーム的意味な意味での聖と俗との厳密な区別が実際には不可能であったからである。この視点から、P.ブリューゲル(父)やアールツェンの作例も考察する。 矢野陽子 フランス革命期のヴァンダリスム グレゴワールによる「ヴァンダリスム」に関する報告で知られているように、フランス革命期には、封建制、王の圧制、宗教的偏見を象徴するとみなされた文化財の破壊が行われた。1792年8月の王政崩壊後、フランス各地で攻撃の的となった国王の像のうち、パリの広場にあった国王の像の破壊に焦点を当て、王の身体の表現である彫像を破壊するという行為、台座の装飾に関する議論、彫像の断片や台座の再利用の意味を考察する。 ウヴェ・フレックナー カール・アインシュタインとその一部の読者 1926年に出版されたカール・アインシュタインの『20世紀の芸術』は、20世紀初頭いわば同時代の芸術動向を詳述しようとする、野心的な試みであった。本論では、500点もの図版が収録された本著が、1937年の「退廃芸術展」で頂点を迎える、ナチス・ドイツのモダン・アート排斥の動向にどのような影響を与え、どのように利用されたかを検証することで、芸術を巡る当時の錯綜した政治的状況を浮彫にする。 ダリオ・ガンボーニ 現代美術とイコノクラスム 「イコノクラスム」(偶像破壊)は、近代以降の西洋美術においては、実際の破壊行為としてではなく、比喩的な方法として復活することで、破壊性と創造性との表裏一体の関係を浮き彫りにした。崇拝の対象とされてきた芸術品と卑俗な日用品との間の秩序壊乱を試みたデュシャンや、そのデュシャン自身を侵犯行為の対象とした作家らの例を中心に、「反近代主義」をも動力源とする、芸術の近代のパラドックスを分析する。
駒田亜紀子 聖ベルナルドゥスと初期シトー会の言説における「聖像論争」 藤原貞朗 芸術破壊とフランスの美術史家、ルイ・レオ著『ヴァンダリスムの歴史』の余白に
秋山学/翻訳・解題 『カロリング文書』(Libri Carolini)
益田朋幸 Hans Belting, Bild und Kult: Eine Geschichte des Bildes vor dem Zeitalter der Kunst 圀府寺司 Richard I. Cohen, Jewish Icons:
Art and Society in Modern Europe
駒田亜紀子/編
小林久見子 「イコノクラスム:中世のイメージの生と死」展(ベルン、2000-2001年/ストラスブール、2001年) 田中容子 「フォーヴィスムあるいは『火の試練』」展(パリ、1999-2000年)
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