作品とコンテクスト |
ヴァトー《シテール島への船出》 |
情熱と理性の和解 |
[著者]ユッタ・ヘルト
[訳者]中村俊春
恋愛の絵画表現
市民的な愛の理想はどう描かれるのか
愛の島シテール島への巡礼の旅は、ヴァトーの作品における中心的なモティーフのひとつである。彼の描いた「フェット・ガラント(雅やかな宴)」や愛の祝祭と同様に、これは、アルカディア的空想世界に属するもので、ルネッサンス以降、この空想の世界において、それぞれの時代を支配する文化に対抗する理想モデルがつくりだされてきたのであった。男女の恋愛を描きだしたヴァトーの絵画には、じつはひそかに、彼の時代に支配的であった国王の宮廷や貴族階級の文化と対立する、市民階級の文化モデルが呈示されているという事実が、本書において明らかにされる。ヴァトーの絵画世界では、市民的な愛の理想が強調されているのである。しかし、その理想は、当時のフランスの市民階級がおかれていた状況に呼応して、宮廷や貴族文化の諸規範とも複雑に結びついていたのであった。
定価=本体 2,000円+税
2004年5月31日/四六判並製/158頁+カラー折込図版/ISBN978-4-88303-139-9
※本書は、1992年に小社から刊行された同書のカバーデザインを新しくしたものです。 |