西洋美術研究 |
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2007年7月31日発行 2007年7月31日/B5判並製/264頁/ISBN978-4-88303-197-9 |
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三浦篤 フランス近代絵画と芸術家伝説
伊藤拓真 G. ヴァザーリの『芸術家列伝』( 1550/1568 )におけるトスカーナ偏重は出版直後から批判の対象となった。しかしながらイタリア全土を視野に収めた芸術家伝集は前例のない画期的なものであり、『列伝』全体を偏狭な郷土主義の産物と捉えることは不適切である。本稿ではヴァザーリの記述において芸術家の活動場所・出身地などの地理的要素がどのような意味を持っていたか、シエナ及びヴェネト地方の芸術家の記述を中心として探っていく。 高橋健一 カルロ・チェーザレ・マルヴァジアの『フェルシナ・ピットリチェ』は、かつて疑いをもってボローニャ人画家にかんする「典拠のための典拠」とみなされていた。しかしマルヴァジアは、資料の厳密な調査、収集そして提示において、ボランディストの新しい歴史学の方法にこそ倣っている。芸術家伝おきまりの逸話に富んだ同書は「すべて真実であるだろう」。わたしたちの美術史家はそのテクストの文学的次元にも意識的で、読者となる画家のために、みずからの歴史をあえて「小説のように見える」ように書いたのである。 阿部成樹 ボヘミアン画家の典型的イメージとしてしばしば取り上げられるタッセールのアトリエ図は、画中の画家が手仕事のうちに沈潜し、そして孤立していることに注目すると、ボヘミアニズムをも含み込んだ、一層幅広い社会的文脈についての批評ととることができるように思われる。個人を結びつけていた絆が緩み、個へと解体していく近代社会の動態が、このアトリエ図というプリズムの向こうに垣間見えるのではないだろうか。。 平芳幸浩 マルセル・デュシャンほど、「芸術家」としての自己を取り巻く状況に極めて敏感で、それにたいして戦略的に振る舞った者はいない。本論では、主に彼の 1910 年代から 20 年代の作品を考察の対象として取り上げて、そこに見られる「自己演出」の様相について、「性」と「名称」という 2 つの操作因子を中心に検討を加える。そして、彼がいかにして「非デュシャン」を生み出し、自己同一性を回避しようとしていたかを分析する。
秋山聰 森雅彦 深谷訓子 中村俊春
小佐野重利
拝戸雅彦 加藤哲弘
阿部成樹[編]
石井元章 彫刻家トゥッリオ・ロンバルド( 1455-1532 )の最後の墓碑彫刻と考えられる《ヴェネツィア総督ジョヴァンニ・モチェニーゴ記念碑》は、基壇表面にアレクサンドリアでの聖マルコ伝説に基づく《アニアヌスの洗礼》の浮彫を持つ。この浮彫はビザンチンの長い図像伝統に棹差し、『聖人伝集』に依拠して、洗礼を神意の介入を伴う「啓示」として表している可能性があると共に、当時の鑑賞者を古典古代の世界へと誘ったと考えられる。
永井隆則 |