西洋美術研究 |
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2013 年11月30日発行 2013年11月30日/B5判並製/216頁/ISBN978-4-88303-327-0 |
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赤江雄一+小池寿子+松田隆美+木俣元一+中村俊春[司会]
長田年弘 パルテノン・フリーズ浮彫には、ペリクレス時代の民主政アテナイにおける市民感情が、自己像として表現されていたとする見解が一般的になりつつある。神殿とその装飾は、彼ら自身の精神文化と社会体制を体現していたとされる。本論は、芸術を共同体とその社会的規範の投影と見なす近年の解釈について再検討を試みる。古代の儀礼と奉納文化に関する歴史的文脈を解読の鍵とし、作例を時代背景により正確に埋め込むための方法を提案できればと思う。 足達薫 美術史家ダニエル・アラスは、イタリア・ルネサンス美術を解釈するための重要な鍵として、古代以来ヨーロッパの心性および視覚的論理を規定してきた記憶術に注目していた。この論文では、アラスの貴重な提案を敷衍し、イタリア・ルネサンス美術の中に見いだされる記憶術的論理を一次文献の読解により跡づける。とくに記憶術師ジュリオ・カミッロの著作『模倣論』および『雄弁のイデア』で輪郭づけられた「記憶術師としての美術家」という概念は、同業者組合的秩序を脱して自由な創造者たることを目指した 16 世紀の美術家・美術理論家たちの動きと至近距離で同調している。 深谷訓子 モチーフに依拠した写実的なイメージが強いオランダ絵画のなかで、「記憶」という要素は「写生」と如何なる関係性にあり、どのような役割を果たしていたのだろうか。本稿では、基本的な概念整理を踏まえ、ファン・マンデルやファン・ホーホストラーテンが制作過程における「記憶」の機能を如何に位置づけているかを明らかにする。さらに記憶力に優れた画家として称えられている人物に着目し、その根底にある考え方を探る 。 桑木野幸司 精神内に架空の場(ロクス)を設定し、そこにヴィジュアル化した情報を規則的に配置してゆく記憶術は、古代の修辞学に淵源する蒼古たる記憶強化法であったが、初期近代にはさまざまな要因が重なって、爆発的な流行を閲するに至った。本稿では 16 世紀の代表的な記憶術論考でありながらまだ本格的な研究がなされていない C ・ロッセッリの『人工記憶の宝庫』を取り上げ、同時代の美術動向との影響関係を、主に天国と地獄の空間表象の観点から考察する。 青野純子 18 世紀初頭のオランダ風俗画はその題材とモチーフに、 17 世紀盛期風俗画からの借用が顕著に見られる。画家は偉大な先駆者の描いた人気の題材を盲目的に反復しただけなのか、それとも彼ら独自の選択基準が存在したのか。本論文は 18 世紀初頭という時期を、 17 世紀オランダ美術が初めて「黄金時代」の遺産として意識的に受容された時代と位置づけ、画家が直面した新たな芸術的環境を浮彫にしながら、彼らの題材選択とその改変について新たな解釈を示す。 泉美知子 回顧展は、 19 世紀後半の国民国家における愛国心の発揚と密接に結びついていた。この展覧会の一形式は、博覧会の時代に発展を遂げてゆく。本論では、 1867 年以降のパリ万博を通して、回顧展が国民芸術の歴史をどのように記述してきたのかについて考察する。そして 1900 年万博のプティ・パレで開催された「フランス芸術回顧展」が、従来の回顧展を総括したうえで、フランス美術史の成立に向けていかなるコンセプトのもとに組織されたのかについて論じてゆく。 中村史子 過去の記憶はどのような形で表現しうるか。私たちは記憶とどう向き合えるのか。震災によって過去が瞬時に失われると同時に、後世に残すべき新たな記憶の保存に関する意識が高まりつつある現在、こうした問いは重大な意味を持ちうる。そこで本稿では、これらの問いをめぐり、クリスチャン・ボルタンスキーの作品をとりあげて考察を行う。過去の記憶の忠実な再構築や伝承を目指すのではなく、むしろ、その不可能性に立脚することで、いかなる過去との対峙が行われるのか検証したい。
クリスチャン・エック 吉田映子[翻訳]
木俣元一
泉美知子[編]
荒木文果
森雅彦
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