西洋美術研究 No.20
特集「美術史学の方法と実践」

定価=本体 2,900円+税
2020年9月B5判並製/244頁/ISBN978-4-88303-515-1

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[目次+レジュメ]

《特集》
■序言
三浦篤「第20号を迎えて」

■論文
阿部成樹「様式と歴史」
人間の手が作り出すかたちは、美術作品に限らず様式を帯びている。それゆえ様式は、美術史のほか文化人類学等においても研究対象とされてきた。その方向は大きく分けて、様式の分類をめざすものと、様式の変遷を追跡するものに二分されよう。本論ではまず様式の特質を確かめた上で、このふたつの方向性のそれぞれについて概観していく。それは、時代様式の交代の記述という「様式史」の従来のイメージを再考することになるだろう。

木俣元一「中世図像学の展開:ディドロンからシャピロまで」
本論文は、ディドロン、マール、ヴァールブルク、フォシヨン、レオ、パノフスキー、そしてシャピロといった重要な研究者による、19世紀後半から20世紀後半に至る中世図像学のおよそ100年間に渡る方法論的展開を、彼らによって共有された、形と意味の歴史における関係を明らかにするという課題を中心に概観する。この展望を通じ、これまではあまり注目されることのなかった研究者間の関係性や方法論的な模索に光を当てたい。

平川佳世「前近代の美術と社会:工房、組合、市場、政治」
芸術作品を、それが制作されて受容された当初の社会的文脈に引き戻して考察することは、現在の美術史研究においては、もはや定着した研究方法の一つである。しかし、こうした、いわゆる「社会史的美術史」研究の歴史は比較的浅く、1950年代以降、急速に発展したものであった。本稿では、特に、近世ドイツ美術に関する重要な「社会史的美術史」研究を振り返ることで、本研究方法が有する今後の可能性について考察する。

田中正之「近現代美術への社会史的アプローチ:コンテクスト論と反映論を超えて」
本論は近現代美術史研究における社会史的アプローチの展開を概観する。社会史的研究は、最初に1930年代に大きく発展し、その後1970年代以降にさらなる広がりを示したが、70年代以降の研究は、従来の研究とは明瞭な相違点を持つものでもあった。従来はコンテクストやその反映といった観点から作品が論じられたが、新たな研究では、それは強く批判され、社会的状況と作品との相互的なやりとりに焦点が当てられ、作品分析がなされている。

三浦篤「メイヤー・シャピロとフランス前衛美術史学の展開」
アメリカの美術史家メイヤー・シャピロは早くから記号論、精神分析、社会史などからの方法論的刺激を美術研究に適用した。シャピロのそうした実践は理論志向のユベール・ダミッシュ、シャピロ論文を仏訳した J.-C. レーベンシュテインとダニエル・アラスにその継承者を見出し、フランスの知的前衛は伝統的な美術史学とは異なるイメージ研究を実践した。美術作品の特異性、表象の不可能性に敏感な彼らは、イメージの示す逸脱や変異に惹かれ、分析手法を深化させていったのである。

河本真理「美術史学/フェミニズム/ポストコロニアリズムのインターフェース」
「人種(民族)・階級・ジェンダー」の問題系において理論上相似的な並行関係にあるフェミニズムとポストコロニアリズムは、女性/LGBTQなど性的少数者/被植民者といった「他者」を抑圧する構造を学際的に解明して問い直すという枠組みにおいて連動し、接点 (インターフェース) で交差してきた。美術史学の歴史の中では比較的新しく登場し、男性中心的/西洋中心的な美術史学のパラダイムそのものを変えようとする、フェミニズム/ポストコロニアリズムの視点に立つ美術史の方法論の変遷を概観し、理論の射程とその有効性を再検討する。

加藤哲弘「美術史学の歴史:その目的と課題」
この論文の目的は、現代における美術史学史の可能性と意義を明らかにすることにある。そのために以下ではまず美術史学史の成立と発展の状況を確認した後で、これまでの成果を、役割に応じて、制度の強化、初学者の教育、制度的枠組みへの批判的反省という三つの類型に分けて考察する。現在の美術史学史はポスト近代的な性格を強めており、そこにはさらに脱芸術、グローバル化、テクノロジーの導入という三つの重要な課題が与えられている。

■研究ノート
秋山聰「聖像/偶像のエージェンシーをめぐるノート

■資料
平川佳世[編] 文献リストと解題 

《特集以外》
■論文
小佐野重利「イタリア美術史における用語カプサ(capsa)の意味と機能の変容」
本稿では、イタリア美術史におけるラテン語カプサの意味と機能の重要な変容を文字資料と作品に照らして跡づける。元々箱を意味した同用語が、5世紀から聖遺物容器、12世紀以前からタベルナクルムの意味と機能を獲得した。オリジナルの意味と機能は、肖像画や貴重品を収納する箱として使われ続け、タベルナクルムの意味と機能は中世後期の聖母彫刻や祭壇画を納めて保護し、同時に、「四旬節の覆い」のようにキリスト教典礼に即して開閉できる仕組みで使われた。

■覧会評
尾崎彰宏「フェルメールと風俗画の巨匠」展(パリ、ルーヴル美術館 2017年2月20日〜5月22日 ほか)

尾崎彰宏「ルーベンス:変身力」展(ウィーン、美術史美術館 2017年10月17日〜2018年1月21日 ほか)

齋藤達也「フレデリック・バジール、印象派の揺籃期」展(モンペリエ、ファーブル美術館 2016年6月25日〜10月16日 ほか);「ファンタン=ラトゥール、鋭敏な画家」展(パリ、リュクサンブール美術館 2016年9月14日〜2017年2月12日 ほか)

■報告
廣田治子「ゴーギャン展およびコロキウム報告書」

■エッセイ
マデリン・ H ・キャヴィネス 太田泉フロランス[翻訳・解題]「20世紀におけるトマス・ベケットの奇蹟?」

■追悼
小佐野重利「創刊号からの盟友 故中村俊春を偲び讃える」

■第20号刊行によせて 新旧編集委員より


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