戦後前衛書に見る書のモダニズム

「日本近代美術」を周縁から問い直す

[著]向井晃子

明治以降、現在も「書」は芸術のジャンルとして不明瞭な立場にある。第二次大戦後、その状況に挑戦する「前衛書」といわれる革新的な試みがあった。なかでも牽引者となった四人、上田桑鳩、森田子龍、井上有一、篠田桃紅の作品と、国内外の美術家との交流に注目し、日本近代美術の制度的枠組みを問い直す。

[書評・紹介]
『墨』2022年9・10月、278号、「新刊ぴっくあっぷ」(芸術新聞社)
『月刊美術』2022年10月、No.565、「ART BOOKS 新刊案内」(サン・アート)
『美術の窓』2022年10月、No.469、「新刊案内」(生活の友社)
「図書新聞」2022年10月22日、評者:栗本高行氏(美術批評家)
「美術新聞」2022年10月5日、「話題の本」(美術新聞社)
《週刊読書人》2022年7月22日、「2022年上半期の収穫から」、評者:長野順子氏

定価=本体 4,300円+税
2022年5月31日/A5判上製/288頁/ISBN 978-4-88303-539-7


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[目次]

序章  7
一.「日本近代美術」のはじまりと書のモダニズム  8
二.明治前期 ――「書画分離」の成立と官僚の二重構造  21
三.明治後期から大正期 ――毛筆使用の減少、競書雑誌と展覧会の普及  26

第一章  上田桑鳩と「現代の書」 ――「書のモダニズム」の萌芽  31
一.第二次大戦以前の上田桑鳩   ―― 「現代の書」の宣言と「線芸術」  32
二.モダニズム的な書の表現   ―― 一九五〇年代の上田桑鳩の作品  39
三.書壇の上田桑鳩受容 ――書の日展参入と上田の日展離脱、前衛書の周縁化  48
四.権威の周縁での展開 ――革新的な制作の発展  55

第二章  森田子龍の「時間性」 ――美術との交流と戦後の「書画再分離」  63
一.文字を書かない試み ――α部を巡る議論  64
二.『墨美』創刊 ――国内での対話と海外への発信  71
三.関西美術シ――ンでの交流 ――美術の分類の検証  78
四.前衛書の海外展開 ――作家間の交流と文化交流政策の重なり  93
五.戦後の「書画再分離」 ――今泉談話の書の「純血」  97
六.素材の実験と「時間性」の重視 ――革新的な作品制作と独自の書論の確立  103

第三章  井上有一の「脱技術」 ――美術との交流と新たな墨の開発  121
一.原点としての「脱技術」 ――上田桑鳩との出会いと法華経、宮澤賢治への眼差し  127
二.「プリミティヴ」なものへの発展 ――長谷川三郎への傾倒と「童書」への熱中  133
三.異素材による非文字の探究 ――書に根ざす抽象造形の追究  143
四.「有一スタイル」確立後の素材の研究 ――新たな墨の開発と「脱技術」の継続  160

第四章  篠田桃紅による「同時代の書画一致」 ――多分野へにじむ活動  177
一.文字と抽象のにじみ ――最初期の作品に見られる「同時代の書画一致」  179
二.同時代美術としての新しい書 ――伝統文化と現代生活の接続  188
三.アメリカ人の協力による渡米 ――文字と抽象による作品発表  196
四.にじみの制御と抽象への特化 ――多方面での活動の展開  213

終章  229

あとがき  239

註  1
参考文献  25
索引  38
引用図版出典一覧  41