西洋美術研究
No.8 特集「アート・コレクション」

2002年11月20日発行
●本体2900円+税

2002年11月/A4判変型並製/256頁/ISBN978-4-88303-102-3

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まえがき

加藤哲弘/森雅彦

コレクショニズムに関するノート 〈pp. 4-5〉


講演

フランシス・ハスケル
伊藤拓真/翻訳 小佐野重利/解説

ヴェネツィア美術と17、18世紀におけるイギリスのコレクター 〈pp. 6-20〉

16世紀半ば、カール5世によってティツィアーノが取り上げられたことがきっかけで、ヴェネツィア美術の収集がヨーロッパ中に広まった。イギリスにおいても17世紀に入ると、王家とその周辺が中心となって、ルネサンス絵画の収集が盛んに行われるようになる。しかしながら清教徒革命の結果、収集の性格は変化を余儀無くされ、代わって、リッチ、ペッレグリーニ、カナレットなど、同時代の画家に眼が向けられるようになった。

 

論文

 

芳賀京子

古代ローマの個人彫刻コレクション 〈pp. 21-38〉
アシニウス・ポリオの「モヌメンタ」

ローマ共和政末期からアウグストゥスの時代に生きたガイウス・アシニウス・ポリオは、成功した政治家であっただけではなく、文化人として、そして大彫刻コレクションの所有者としても知られている。プリニウスが記す彼のコレクションの内容を、碑文や出土品から検証し、それがどのような彫像から構成され、どこに、どのように展示されていたのかを考察する。


尾崎彰宏

レンブラントのコレクション
観念の体系から歴史のまなざしへ 〈pp. 39-60〉

蒐集にあたってレンブラントがことのほか執着したリューカス・ファン・レイデンとピーテル・ブリューゲル(父)の版画のはたした意義を明らかにする。またその収集品から、レンブラントの視線がヨーロッパを越えて遥か東洋にまで向けられていたことにも注目したい。本稿は、レンブラントのコレクションを観念の体系としてではなく、むしろ、歴史のまなざしとしてとらえる試みである。


浦上雅司

カッシアーノ・ダル・ポッツォと「紙の博物館(Museo cartaceo)」 〈pp. 61-81〉

カッシアーノ・ダル・ポッツォ(1588〜1656)は存命中、古代ローマ文化考証家として国際的な名声を獲得していた。その研究の中核にあったのが、彼自ら「紙の博物館(museo cartaceo)」と呼んだ古代ローマ遺物の素描集だが、これは当時、古代遺物視覚史料集として重要な意味を持っていた。当論文は、「紙の博物館」をルネサンス以来の古代考証学の流れに位置づけ、また、この企画を巡るプッサンとカッシアーノの結びつきにも触れる。


森雅彦

レオポルド・デ・メディチ、バルディヌッチと素描コレクション 〈pp. 82-115〉
美術史コレクションの形成をめぐって

レオポルド・デ・メディチの高名な素描蒐集は、フィリッポ・バルディヌッチの助力の下に進展し、また後者の『美術家消息』自体、素描蒐集の整理と連動して生まれたものであった。レオポルドの死後、バルディヌッチは、素描の整理を完成させた。しかし芸術家たちの素描を並置することで、芸術様式のクロノロジカルな理解を図ろうとしたという第1巻中の証言は、整理の実態とはおおきく食い違っている。その美術史方法論や「アポロジア」として知られる高名なテクストは、〈letterato〉のレトリックであり、現実のコレクション整理作業は、困難に満ちた前近代の美術史家の試行に他ならなかった。


島本浣

18世紀のパリにおけるコレクション 〈pp. 116-138〉
絵画・画商・市場

18世紀のパリでは、競売会の増加とともに開かれた美術市場が成立し、また、この市場を通してフランドル派を中心とする絵画の蒐集という、新しい趣味も生まれる。そうした市場と趣味の誕生にはジェルサン、レミ、バサン、ル・ブランなど新しいタイプの画商が深く関わっているが、世紀後半のル・ブランに至り、市場によって生みだされた絵画蒐集趣味は、それまでの絵画の歴史と価値観を乗り越えるまでになっていく。こうした18世紀パリの美術市場の諸相を具体的にスケッチしていく。


陳岡めぐみ

画商たちの「イメージ」戦略
レオン・ゴシェ(1825-1907)とエッチング挿絵入り競売カタログ 〈pp. 139-157〉

画商とコレクターの協力の下にしばしば投機的競売が開催された第三共和政期初頭、豊富な複製エッチングを入れた競売カタログが作られている。本稿では『ガゼット・デ・ボザール』を舞台に展開された1873年の事例に基づき、画商レオン・ゴシェの役割に注目しながら、こうした挿絵入り競売カタログが、イメージの共用によって学術や蒐集の領域と交差しつつ絵の正統性や評価を高める宣伝手段となっていたことを見ていく。


加藤哲弘

成立期の美術史学とコレクション 〈pp. 158-170〉
フィオリロの場合

この論文の目的は、成立期の美術史学とアートコレクションとの関係について、世界ではじめて大学の美術史学講座の正教授職に就いたJ. D.フィオリロの業績を追跡することで明らかにすることにある。『ゲッティンゲン大学絵画コレクションの記述』からも見てとれるように、フィオリロは、大学のアートコレクションを「直観的」教材として利用することで、その後の実証主義的な「新しい美術史学」への展開を準備した。


研究ノート

木俣元一

サント=シャペルのコレクション 〈pp.171-176〉


中村俊春

レスタ、ルーベンス、ファン・ディーペンベーク 〈pp.177-182〉


原典資料紹介

小澤実/翻訳・解題

シャルルマーニュの「遺言」 〈pp. 183-191〉


芳野明・池田亨・越川倫明/抄訳・註解 越川倫明/解題

マルカントニオ・ミキエル『美術品消息』(1521-43) 〈pp. 192-215〉


足達薫/翻訳 森雅彦/解題

フェデリコ・ボッロメーオ「美術館」(抄) 〈pp. 216-235〉


書評

岡田裕成

Jonathan Brown, Kings & Connoisseurs: Collecting Art in Seventeenth-Century Europe 〈pp. 236-241〉


文献リストと解題

岡田裕成加藤哲弘/森雅彦 〈pp. 242-255〉

 

展覧会評

石澤靖典

「サンドロ・ボッティチェリ―『神曲』の画家」展
(ベルリン、2000年/ローマ、2000年/ロンドン、2001年) 〈pp. 256-261〉

 

Art News

複製作品の効用
ファクシミリによるセーヘルス版画展と大塚国際美術館を例に 〈pp. 262-268〉

---Section 1---
寺門臨太郎
ファクシミリによるセーヘルス版画展

---Section 2---
小佐野重利
大塚国際美術館
原寸大の陶板複製絵画のあふれる空間
       


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