戦後期アイヌ民族-和人関係史序説
1940年代後半から1960年代後半まで

[著者]東村岳史

アイヌ民族と和人の新たな歴史記述に向けて――
アイヌ近現代史においてもっとも記録の蓄積が薄かった戦後1940年代後半から60年代後半までを、アイヌ民族―和人関係史という枠組み設定により多面的に叙述するはじめての試み。 戦後20数年間の歴史が現在へと架橋される。

定価=本体 3,600円+税
2006年5月20日/A5判上製/360頁/ISBN978-4-88303-180-1

 


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[目次]

序章 問題の所在 11

1 はじめに――かえりみられてこなかった時代 12
2 他者性のとらえかたと当事者性――少数派と多数派の関係 15
3 資料と方法 19
4 時代の素描と本書の構成 21
5 戦後期の新たな歴史記述に向けて 25

第1章  『現代のアイヌ』における「現代」の位相――「同化」の物語をめぐるアイヌ像と和人像 31

1 はじめに 32
2 取材の経緯と出版の目的 36
3 取材対象者との関係 39
4 「現代のアイヌ」の位相――世代、性別、階層と「同化」 41
   4-1 世代差――過去への「郷愁」と未来への「前進」 42
   4-2 「同化」のプロセスとベクトル 43
   4-3 結婚の場面に現れる非対称性 47
   4-4 男性「成功者」と階層 52
5 和人(日本)社会 56
   5-1 具体的な教員像と抽象的な社会観 56
   5-2 研究者像――「民族移動のロマン」の意味 59
6 おわりに――「同化」の物語の同時代性 62

第2章  「熊祭り」の 政治学――「殺す」べきか「殺さざる」べきかをめぐって 69

1 はじめに 70
2 「熊祭り」の浸透度 72
  2-1 呼称について――なぜ「熊祭り」か 72
  2-2 「熊祭り」の通俗度 73
3 「熊祭り」の報道と形態 75
  3-1 「古式豊か」な「文化財」/「野蛮」な「見せ物」75
  3-2 「殺す」べきか「殺さざる」べきか――「動物愛護」への対応 77
  3-3 アイヌの説明と和人の代弁 82
4 シャクシャイン祭における「熊祭り」の末 84
5 おわりに 88

第3章 観光という磁場の力学――「観光アイヌ」再考 103

1 はじめに―問題の所在 104
2 観光人類学の視角――「主体性」を語る場と条件 107
3 戦後北海道の「観光文化」におけるアイヌ表象 111
  3-1 「観光文化」の拡大 111
  3-2 観光批判の矛先 116
4 観光の「内部」と「外部」 120
5 「見せる主体」は可能か 123
6 おわりに 128

第4章 「名作」の誕生と受容(1)――『コタンの口笛』の児童文学性 133

1 問題の所在 134
2 「名作」の地位 137
3 「名作」の誕生と普及 139
  3-1 執筆の経緯 139
  3-2 アイヌに関する取材と認識 141
  3-3 書籍販売 142
  3-4 テレビ・ラジオドラマ化、映画化の影響 144
4 受容と批評 146
  4-1 好評の理由 146
  4-2 批判のポイント 150
  4-3 大人の価値づけと子どもの受け止め方 155
  4-4 批判の表面化 158
5 おわりに――「善意こそ全能」 160

第5章  「名作」の誕生と受容(2)――『森と湖のまつり』の素材と主題 165

1 はじめに 166
2 後年の評価――何の「名作」なのか 167
3 「名作」の誕生と普及 169
  3-1 武田の経歴と『森と湖のまつり』の概要 169
  3-2 武田のアイヌ認識と執筆の経緯 170
  3-3 書籍販売 172
  3-4 映画化の余波 173
4 受容と批評 174
  4-1 賞賛と批判 174
  4-2 「観光小説」と映画イメージ――通俗性と一般読者 176
  4-3 「深刻な主題」と娯楽性――「多様な読み」の錯綜 179
5 通俗小説か「名作」か――二つの読みの共犯関係 183
補遺――二つの異なった「名作」と同時代性 186

第6章 千島アイヌと 「領土返還」運動――動員から忘却へ 191

1 はじめに 192
2 千島アイヌの消息 194
3 「固有の領土」論の歴史的根拠としての「先住民族」 199
4 「返還」運動停滞から活性化、そして千島アイヌ忘却――アイヌ不在の「固有の領土論」へ 201
5 おわりに 204

第7章 和人が語るアイヌ民族の「誇り」――他者への敬意とパターナリズムに関する小考 209

1 はじめに 210
2 「開発の恩人」 212
3 「歴史的文化」 217 
4 「誇り」の語り――「劣等感」から「自覚」「自信」へ 219
5 「誇り」の条件とパターナリズム 226

第8章 ユートピアを志向する 「開拓精神」と「フロンティア」――北海道開発論と北海道文化論の行方 233

1 はじめに 234
2 戦後北海道開発計画と開発論議 236
3 「北海道らしさ」とは 242
  3-1 教育関係者の「道民性」論 242
  3-2 梅棹忠夫の「北海道独立論」 243
  3-3 『北海道新聞』の「北海道を考える」 245
  3-4 「甘いイメージ」の浸透 247
4 「植民地」と「フロンティア」――喪失のユートピア/未完のユートピア 249
5 おわりに 255

第9章  「道民」は 「人間のルツボ」か――アイヌ民族「同化」論と「道民」形成論の関係 261

1 はじめに 262
2 「アイヌと道産子」 264
3 「同化」・「融合」・「混血」 270
  3-1 「同化」の要件 270
  3-2 「混血」/「純血」認識 272
  3-3 「道民」に「アイヌ」は含まれるのか 274
4 おわりに 278

第10章 農地改革、北海道不良環境地区対策、そして 北海道旧土人保護法存廃論争
――アイヌ民族と行政府の対立と「協同」 283

1 はじめに 284
2 土地紛争の記憶 285
3 北海道不良環境地区対策 291
  3-1 行政府の問題認識 291
  3-2 北海道ウタリ協会の働きかけと行政府との接触 298
4 旧土人保護法存廃論争 303
5 おわりに――「協同」はいかにして可能か 309

終章  「遠い記憶」と 「近い記憶」――歴史の「復権」を考えるために 315

1 はじめに 316
2 「遠い記憶」と「近い記憶」 317
3 一九七〇年代と現在における「遠い記憶」と「近い記憶」 320
4 和人にとっての「近い記憶」――戦争体験、戦後、記憶の形成と忘却のメカニズム 325
5 「歴史」の「復権」と過去の蘇生 329

あとがき 337
参照文献 IV
索引 I


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