『華麗島文学志』とその時代

比較文学者島田謹二の台湾体験

[著者]橋本恭子

植民地台湾において、島田謹二は、戦間期のフランス比較文学をいかに受容したのか。本書は比較文学と台湾文学の領域を横断しつつ、『華麗島文学志』に結実した、島田の比較文学思想が、「植民地主義」や「国家主義」との関連で形成された過程を、1930年代台湾の言説空間を明らかにしながら、検証していく。

[書評]
《図書新聞》2012年8月18日号、評者:大東和重氏
『比較文学』第55巻(2013年、日本比較文学会)、評者:佐野正人氏→書評を読む

定価=本体 6,500円+税
2012年2月10日A5判上製/556頁/ISBN978-4-88303-297-6


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[目次]

序章 沈黙と誤解から理解へ 9
  第一節 出発点――『華麗島文学志』をめぐる沈黙 9
  第二節 先行研究の検討――『華麗島文学志』をめぐる誤解 17
     1.「台湾文学」の分野 17   
     2.周辺分野の研究 21
  第三節 本研究の課題と方法――『華麗島文学志』の理解に向けて 23
  第四節 本書の構成 26
     注 28

第一章 『華麗島文学志』読解の手がかりとして――「比較文学」とは何か 35
     はじめに 35
  第一節 比較文学への入り口――「『比較文学雑誌』の読み方」 36
  第二節 両大戦間におけるフランス『比較文学雑誌』の意義 40
     1.バルダンスペルジェのマニフェスト 40   
     2.「時報」(chronique)欄と時代独自の問題 47
     3.ロマン主義研究の意義 52   
     4.文化相対主義とヨーロッパ精神 60
     5.比較文学者になるということ 65
  第三節 一九三〇年代における「比較文学」の受容 69
     1.「対比研究」と「影響研究」 70   
     2.一九三〇年代の変容 72
     3.日本派比較文学の方へ 77   
     4.学問を受容することの意味 83
  小結 85
  注 87

第二章 『華麗島文学志』の誕生 103
     はじめに 103
  第一節 出発点――「南島文学志」 104
     1.誕生の要因 104   
     2.「台湾文学」の定義 107
     3.文学史研究の視角 113   
     4.文学研究の状況 114
  第二節 『華麗島文学志』とは何か 117
     1.テクストの範囲 117   
     2.「外地文学論」の論点と全体の流れ 122
     3.文学史としての特長 125
  第三節 「台湾文学」の消失と発見 134
     1.「台湾文学」の消失 134   
     2.「台湾文学」の発見 138
  第四節 「植民地文学」から「外地文学」へ 141
     1.「植民地文学」から「外地文学」へ 141   
     2.台湾における「植民地文学」 146
     3.「植民地文学」/「外地文学」差別化の背景 153
  小結 157
     注 159

第三章 『華麗島文学志』とその時代――郷土化・戦争・南進化 173
     はじめに 173
  第一節 『華麗島文学志』とその時代 176
     1.中川健蔵総督の時代――施政四〇周年 176
     2.小林躋造総督の時代――皇民化・工業化・南進基地化 178
  第二節 郷土化 181
     1.「比較文学」と「郷土主義文学」 181   
     2.在台日本人の郷土主義 183
     3.台湾人の郷土文学運動 192   
     4.モデルとしてのプロヴァンス文芸復興運動 198
     5.吉江喬松という媒介 202
  第三節 戦争 207
     1.日中戦争下における文芸意識の転換――趣味の文学から報国の文学へ 207
     2.西川満の戦略 212   
     3.皇民化と在台日本人 215
  第四節 南進化 221
     1.一九三九年という時代 221   
     2.台北帝国大学教員としての使命 224
     3.台湾、満州、朝鮮の文学 226   
     4.南方外地文学の樹立に向けて 231
     5.中央文壇との関係 234
     小結 241
     注 243

第四章 「外地文学論」の形成過程 267
     はじめに 267
  第一節 郷土主義文学・比較文学・外地文学 268
     1.島田謹二の郷土主義 268   
     2.外地文学と比較文学 274
  第二節 フランスの植民地文学研究 277
     1.島田謹二の参考文献 277   
     2.フランスの研究における「エグゾティスム」 282
     3.植民地文学とレアリスム 284   
     4.原住民作家の文学 287
  第三節 外地文学の課題 289
  第四節 『華麗島文学志』のエグゾティスム 292
     1.叙情性としての「エグゾティスム」 292
     2.エグゾティスム批判としての「エグゾティスム」 298
     3.日本近代詩経由の「エグゾティスム」 302   
     4.南方的美の創出 309
  第五節 植民地の真実とレアリスム 314
     1.植民地の真実 314   
     2.レアリスムの模索 319
     小結 322
  注 325

第五章 四〇年代台湾文壇における『華麗島文学志』 339
     はじめに 339
  第一節 台湾文壇の再編成 340
     1.「台湾文学」の再登場 341   
     2.「外地文学」の登場 346
     3.「外地文学」と「台湾文学」の一体化 348
  第二節 「台湾の文学的過現未」再読 349
     1.「台湾文学史」という誤読 350   
     2.「台湾の内地人文学」から「台湾の文学」へ 352
     3.変更と保留 356   
     4.分業研究へのこだわり 358
  第三節 「エグゾティスム」批判と「レアリスム」の提唱 363
     1.「エグゾティスム」批判の流れ 364   
     2.「エグゾティスム」批判の意義 372
     3.「レアリスム」を説くことのアポリア 376   
     4.「レアリスム」提唱の盲点 379
  第四節 「台湾文学」の定義と「文学史」観をめぐる議論 382
     1.背景  383   
     2.「台湾に於ける文学について」 385
     3.二つの文学史 389   
     4.闘争としての文学史 401
     小結 405
     注 407

第六章 太平洋戦争前夜の島田謹二――ナショナリズムと郷愁 417
  はじめに 417
  第一節 作家研究の確立 419
     1.森鴎外から籾山衣洲へ 419   
     2.籾山衣洲研究――公の光、私の闇 422
  第二節 明治ナショナリズム研究の淵源 426
     1.明治ナショナリズムの発露 426   
     2.明治と昭和のナショナリズム 429
     3.戦後のナショナリズム研究 433   
     4.植民地のナショナリズム 437
     5.中国・台湾への視線 440   
     6.対比研究の戦略性 442
  第三節 「郷愁」の行方 447
     1.「郷愁」という課題 447   
     2.統治者の二面性 450
     3.植民地で病むこと、老いてゆくこと 455   
     4.「郷愁」の重さ 458
     5.もう一つの「郷愁」 464
  第四節 植民地の比較文学 467
     1.太平洋戦争下の島田謹二 467   
     2.植民地の比較文学―島田謹二の台湾体験 471
     小結 473
     注 475

終章 二つの文学史における『華麗島文学志』の意義 487
  第一節 日本近代比較文学史における『華麗島文学志』の意義 488
     1.『華麗島文学志』に見る比較文学の思想 488   
     2.「歴史的制約」を超えて 490
  第二節 台湾文学史における『華麗島文学志』の意義 494
     1.『華麗島文学志』の位置づけ 494   
     2.新たな議論に向けて 497
  第三節 比較文学の可能性 499
     注 502

付録(一)  文学研究年表(一九三一〜一九四五) 503
付録(二)  『華麗島文学志』在台日本人文学年表 507
付録(三)  島田謹二在台期著作年表(一九二九〜一九四四) 513

参考文献 521 
あとがき 541   
索引 554


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