近代インドにおける古典音楽の社会的世界とその変容

“音楽すること”の人類学的研究

[著]田森雅一

変化の激しい近代社会のなかで、北インドの古典音楽家たちは、ガラーナーという用語・概念を用いて“われわれ”を語ることで何をなそうとしているのか。音楽伝統と社会音楽的アイデンティティの再生産と再創造の問題を問う。

定価=本体 6,100円+税
2015年2月18日A5判上製/544頁/ISBN978-4-88303-371-3


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[目次]

謝辞 III
凡例 IV
図表・写真一覧 XIII

  序論 音楽と社会をめぐって
     (1).問題の所在:“音楽すること”の人類学的研究に向けて 1
          (1)-1.はじめに 1
          (1)-2.人類学および隣接諸科学における音楽研究の意義と課題 6
          (1)-3.音楽学的アプローチから人類学的アプローチヘ 10
          (1)-4.音楽と社会をめぐる理論的実践の試み 18
     (2).先行研究と全体構成:インド音楽の社会的世界をめぐって 25
          (2)-1.南アジアにおける人類学研究の潮流と本論文の位置づけ 26
          (2)-2.音楽分類の制度的再帰性とナショナリズム 31
          (2)-3.インド音楽のジャンルと研究対象 39
          (2)-4.ガラーナーの先行研究と課題 43
          (2)-5.調査資料と全体構成 46

第T部 ガラーナーとは何か

  第1章 ガラーナーの定義と適用範囲
     1-1.ガラーナーの物語から 53
     1-2.ガラーナーの定義:音楽スタイルと家族の威信 58
     1-3.ガラーナーの成立要件:日本の家元制度との比較 62
     1-4.ガラーナーの適用範囲:分析的視点と認識的視点 65

  第2章 音楽財産をめぐる社会関係――系譜、婚姻、師弟関係
     2-1.何が秘されたのか:音楽的実践知の秘匿と独占化 73
     2-2.誰に、どのくらい伝えられたか:親族のカテゴリーと弟子のカテゴリー 80
     2-3.社会関係からみたガラーナーの3つの次元:系譜、婚姻、師弟関係 83
     2-4.ハーンダーンおよびビラーダリーとしてのガラーナー:出自と婚姻関係 87
     2-5.グル・シシャ・パランパラーとしてのガラーナー:入門儀礼と師弟関係 90
     2-6.どのように伝えられ、いかに学習されたか:模倣から即興へ 95
     2-7.ガラーナーの外縁とその拡大:養子、パトロン、芸妓 99

  第3章 ガラーナーによって“われわれ”を語ること
     3-1.音楽家の二つの言説:「ハーンダーン」と「バージ」 107
     3-2.ガラーナー名をめぐる言説:その由来と意味 110
     3-3.北インドにおける音楽家の位置づけ:音楽ジャンルとカースト 114
     3-4.ガラーナーの“名乗り”と“名付け” 118

  第4章 ガラーナーの社会史@ ムガル帝国前期――中央宮廷における音楽的権威の形成
     4-1.デリー諸王朝期におけるガラーナーの4つの起源(社会音楽的カテゴリー) 124
     4-2.ムガル帝国前期における楽師カテゴリーの編成:中央宮廷への楽師の集中と安定 128
     4-3.音楽的権威セーニヤーの誕生とその系譜 136
     4-4.ヒンドゥー教とイスラームの音楽観と楽師の改宗(なぜムスリムがヒンドゥー神讃歌を歌うのか) 141

  第5章 ガラーナーの社会史A ムガル帝国後期――地方宮廷への楽師の分散と定着
     5-1.ムガル帝国後期における宮廷楽師の動向:地方宮廷への分散とガラーナー形成 148
     5-2.地域における寺院音楽と宮廷音楽の動向:ラージャスターンを中心として 152
          5-2-1.ヒンドゥー寺院とその音楽への影響 153
          5-2-2.地方宮廷の動向(1):ジャイプルにおけるガラーナーの成立過程 155
          5-2-3.地方宮廷の動向(2):ジョードプルにおける女性楽師の系譜 159
     5-3.楽師カテゴリーの再検討:カラーワント、カッワール、ダーディーとは何か? 164

  第6章 ガラーナーの社会史B 英領インド帝国期――芸能カーストの“結晶化”と“ナウチ関連問題”
     6-1.ムガル帝国から英領インド帝国へ 172
     6-2.英領インド帝国期の国勢調査における音楽関係者の「カースト」とミーラースィー 173
     6-3.“ナウチ関連問題”と売春幇助者としてのミーラースィー 183
     6-4.「カースト」から“ガラーナー”へ 192

第U部 近代におけるインド音楽の社会空間

  第7章 インド音楽とガラーナーの近代化――植民地近代における古典音楽の再構築
     7-1.S.M.タゴールの革新:植民地下における音楽のオリエンタリズムとナショナリズム 199
     7-2.バートカンデーの功罪:インド音楽の理論化と歴史の再構築に向けて 205
          7-2-1.音楽的英知を求める旅路とその帰結 206
          7-2-2.ガラーナーの音楽財産の顕在化と共有化に向けて 208
          7-2-3.「ヒンドゥー音楽」とヒンドゥスターニー音楽 213
          7-2-4.ヒンドゥーの理論とムスリムの実践の狭間で 217
     7-3.パルスカルの実践:信仰と師弟関係に基づく音楽の実践 221
     7-4.音楽の近代化に抗するものとしてのガラーナー 225

  第8章 音楽家の生活基盤の変化と適応戦略――新しいパトロンとしてのマスメディア
     8-1.音楽産業とラジオ放送の出現とその展開 232
          8-1-1.レコード産業の発展 233
          8-1-2.映画産業の興隆 236
          8-1-3.ラジオ放送の開始 237
     8-2.全インド・ラジオ放送(AIR)における改革とその反響 239
     8-3.“新しいパトロン”としてのAIRのインパクトと音楽家の適応戦略 244
          8-3-1. 音楽家の生活世界へのインパクト 244
          8-3-2.音楽伝統や慣習に与えたインパクト 251
          8-3-3.音楽家の社会的地位やイメージに与えたインパクト 252
     8-4.音楽放送と音楽産業がガラーナーに与えたインパクト 254

  第9章 インド音楽とガラーナーの近代化の帰結――音楽家の社会空間と日常的実践、その定量的・定性的把握
     9-1.テキストとしての『インド音楽家名鑑』とその分析 258
     9-2.『名鑑』の集計結果とその検討 260
          9-2-1.音楽家の宗教・性別・世代分布 260
          9-2-2.音楽家の分野別の宗教・性別分布 260
          9-2-3.音楽家の職業分布・学位・音楽活動および宗教との関係 264
          9-2-4.音楽家の専門分野の分布 265
          9-2-5.専門分野別のガラーナーの所属 267
          9-2-6.師弟関係と宗教、その相関と変化 269
     9-3.定量分析からの考察:近代における音楽環境とガラーナーの社会関係の変化 272
     9-4.定性調査からの考察:音楽環境の変化に対する音楽家の認識と適応戦略 277

第V部 サロードのガラーナーをめぐって

  第10章 サローディヤーの歴史と伝承――系譜関係としてのガラーナー
     10-1.サロードおよびサローディヤーとは何か? 290
     10-2.サロードにおける「4つのガラーナー」の現況 296
     10-3.アフガニスタンから北インドへ:パターン・サローディヤーの来歴 300
     10-4.シャージャハーンプル・ガラーナーの系譜と伝承 306
          10-4-1.シンザイー派の人々 307
          10-4-2.ジャラールナガル派の人々 312
          10-4-3.パール派とビジリープラ派の人々 314
     10-5.ラクナウ・ガラーナーの系譜と伝承 315
          10-5-1.バグラーシ派の人々 318
          10-5-2.ドールプル派の人々 325
     10-6.グワーリヤル・ガラーナーの系譜と伝承 326
     10-7.マイハル・ガラーナーの系譜と伝承 327
     10-8.歴史に埋もれたガラーナー 330
     10-9.サローディからサローディヤーヘ 332

  第11章 婚姻関係と師弟関係の相関とその変化――婚姻連帯としてのガラーナー
     11-1.音楽財産の移動と婚姻関係 335
     11-2.シャージャハーンプル・ガラーナー内の婚姻関係と師弟関係 339
     11-3.ラクナウ・ガラーナー内の婚姻関係と師弟関係 342
     11-4.異なるガラーナー間の婚姻関係と師弟関係 347
     11-5.新たな婚姻連帯がもたらす演奏技法と音楽の変化 351
     11-6.「形成期後期」から「ポスト形成期」にかけての社会環境と伝承形態の変化 354

  第12章 実践共同体における学習とアイデンティティ――師弟関係としてのガラーナー
     12-1.音楽的実践知の詳述困難性 359
     12-2.音楽的実践知の身体化と音楽スタイルの再生産 362
     12-3.音楽的実践知の学習プロセス:いつ、誰から、どのように学んだか 367
     12-4.実践共同体の再生産と変容をめぐって 371
     12-5.師弟関係の連鎖における歴史性とアイデンティティ化のプロセス 374
     12-6.学習者の動機と後継者の問題 380

  第13章 アイデンティティとポリティクス――イデオロギーとしてのガラーナー
     13-1.出自とガラーナーの言説をめぐって 385
     13-2.バンガシュとドームの間:社会的カテゴリーと社会関係 392
     13-3.スティグマとアイデンティティ・ポリティクス 399
     13-4.再帰的世界において“音楽すること” 402

  第14章 新しい“ガラーナー”の可能性と――音楽伝統における創造性
     14-1.親族ネットワークの変化と 伝統的ガラーナーの衰退 407
     14-2.非世襲音楽家による、新しい“ガラーナー”の興隆 410
     14-3.新しい“ガラーナー”と再帰的で美的なアイデンティティ 416
     14-4.伝統的スタイルと個人の創造性 422
     14-5.ガラーナーを超えて:音楽伝統と創造性の狭間で 427

  結論 近代インドにおいて“音楽すること”
     1)歴史の中のガラーナー:マクロ・レベルにおける音楽と社会の再生産 434
     2)共同体としてのガラーナー:メゾ・レベルでの社会関係と学習過程 438
     3)アイデンティティ化の源泉としてのガラーナー:ミクロ・レベルでの実践と再帰性 442
     4)結語にかえて:再帰的世界における音楽の創造性 448

巻末資料A:ラーガ音楽の楽曲構造と演奏形式 453
巻末資料B:フォーマル・インタビューの概要 470
巻末資料C:ヒンドゥスターニー音楽のガラーナー形成史 475
主要用語集 477
参照文献 481
あとがき 510
主要人名索引 515


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