彼女達との会話
ネパール・ヨルモ社会におけるライフ/ストーリーの人類学

[著]佐藤斉華

ヨルモの結婚において、女性は生家から婚家へと贈与されるモノと位置づけられる。もちろん、社会が女性をどう位置づけようとも女性=人間はモノになるわけがない――彼女達は常に行為者であり、そうあり続けてきた。社会的に行為する力を剥奪されつつも、自らの生をそれぞれに切り拓いてきた女性達の生を、その語りの陰翳に寄り添って描きだす。

[書評]
《図書新聞》第3221号(2015年09月05日)、評者:森本泉氏

定価=本体 5,500円+税
2015年2月28日
A5判上製/352+カラー口絵4頁/ISBN978-4-88303-377-5


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[目次]

口絵 II  
図表一覧X  
凡例 XI

序章 1
  1.はじめに 2
  2.「生を描く」とは何をすることなのか:エイジェンシー論再訪 3
     2.1.エイジェンシー論の系譜 4
     2.2.エイジェンシー論の課題 9
     2.3.「近代」との関係:エイジェンシーに接する諸力の人類学へ 20
  3.ライフ・ストーリーという方法 27
  4.ヨルモ社会・本書の基づく調査・本書の構成について 34

第1章 ジェンダーをやる/やめる――ネパール・ヨルモ社会における女の実践、男の実践 43
  1.はじめに 44
  2.ジェンダーをやる:ジェンダーを構築する諸実践 49
     2.1.世帯内の性別役割分業 50
     2.2.ジェンダー化された家屋空間 55
     2.3.世帯をこえる諸実践 64
          2.3.1.仏教的実践 64
          2.3.2.祭礼、葬礼、婚礼 68
          2.3.3.その他の世帯を超える諸実践 72
  3.ジェンダーをやめる:ジェンダーを脱構築する諸実践 77
  4.結論 86

第2章 「私は行かないといった」――女性達の結婚をめぐる語りにみるエイジェンシー 91
  1.はじめに 92
  2.結婚をめぐる女性達の語り 99
     2.1.抵抗の語り 99
     2.2.忍従の語り 103
     2.3.同意の語り 107
  3.結婚をめぐる語りに見る女性のエイジェンシー 109
     3.1.結婚に向けた女性の積極性:不在なのか? 110
     3.2.ヨルモにおける婚姻の制度構造:女性の主体性という空白 115
          3.2.1.ヨルモにおける「結婚」の語彙 115
          3.2.2.規範的「嫁やり婚」とその外部 119
     3.3.語る行為におけるエイジェンシー 127
          3.3.1.「結婚に向けた積極的意思の否認」を語る行為 128
          3.3.2.「結婚に向けた積極的意思の肯定」を語る行為 129
  4.結論 132

第3章 嫁盗り婚の抹消――女性達の「語らない」エイジェンシー 137
  1.はじめに:「語られない経験」としての嫁盗り婚 138
  2.嫁盗り婚の経験をめぐる語り 142
  3.なぜ、嫁盗り婚なのか?:嫁盗りに訴える理由 148
  4.なぜ、語られないのか?:嫁盗り婚の制度的位置づけ 160
  5.結論:女性が「語らない」理由 166

第4章 「女に生まれて厭じゃない」――女としての受難、女としての自己肯定―ダワのストーリー 171
  1.はじめに:なぜ「女で満足」なのか 172
  2.ある類いまれな抵抗:ダワのストーリー 175
     2.1.結婚が決まる 176
     2.2.結婚式からの逃走 177
     2.3.逃走から定着へ 180
  3.考察 184
     3.1.ダワの受難:いかに「女として」なのか 184
     3.2.なぜ「女であること」を肯定できるか? 192
  4.結論:ダワのその後 201

第5章 「女は行かなければならない」――婚姻規範への(不)服従―ニマのストーリー 205
  1.はじめに 206
  2.「女は行く」規範をめぐる現実と構造 208
     2.1.「女は行っている」か:未婚と既婚をめぐる現実 208
     2.2.「女は行く」規範と連関する構造的諸条件 213
  3.ニマの語り 217
     3.1.なぜ結婚しなかったか@:老齢の父親、そして病 217
     3.2.なぜ結婚しなかったかA:イタリア人の求婚者 220
  4.考察:なお、なぜ「女は行かねばならない」なのか? 227
     4.1.規範の肯定 228
     4.2.自己のサバイバル 230
     4.3.規範との折り合いをこえる 235
  5.結論 238

第6章 お茶のカップは受け皿にのせて――世界/ヨルモの片隅で、フェミニズムを語る―ドマのストーリー 241
  1.はじめに 242
  2.ドマのライフ・ストーリー 244
  3.ドマのフェミニズム 249
  4.何がドマをフェミニストにしたか? 262
  5.結論 269

終章 275

補論 消え去りゆく嫁盗り婚の現在――ヒマラヤ山地民の言説実践における「近代」との交叉をめぐって 287
  1.問題の所在:消えゆく「女性への暴力」としての嫁盗り婚? 288
     1.1.西欧人類学における嫁盗り婚をめぐる議論 289
     1.2.ヨルモにおける嫁盗り婚 291
  2.否定される嫁盗り婚:嫁盗り婚をめぐる一般的言説 293
  3.なぜ嫁盗り婚は「否定される」のか?:言説の内容分析 301
     3.1.「開発としての進歩」言説 302
     3.2.「伝統に基づく進歩」言説 309
  4.嫁盗り婚を否定する語りの遂行する行為 312
  5.結論 322

初出一覧 324  
あとがき 325  
参考文献329


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