ことばの「やさしさ」とは何か

批判的社会言語学からのアプローチ

[編者]義永美央子山下仁

「やさしさ」の再考と解体――
本書は「やさしさ」を共通のキーワードにしながら、日本語教育、医療のことば、ろう教育、言語景観、震災と原発などのさまざまな事象にアプローチしている。言語や社会現象を研究の対象とするものが、それぞれの実践や思索、具体的な調査に基づいて、「やさしさ」という、古くて新しい価値を再評価し、対話の可能性を提供する。

定価=本体 2,800円+税
2015年3月25日A5判並製/288頁/ISBN978-4-88303-383-6


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[目次]

はじめに/山下仁  009

第1章 日本語教育と「やさしさ」――日本人による日本語の学び直し/義永美央子  019
  1  はじめに  019
  2  「日本人による日本語の学び直し」に関する議論  022
     2.1  やさしい日本語  022
     2.2  母語話者の接触能力 026
     2.3  共生日本語 027
  3  2 つの「見直し」の必要性  028
     3.1  「ことば」の位置づけの見直し 029
     3.2  「ひと」の位置づけの見直し 030
  4  日本社会における複言語・複文化主義の可能性  031
     4.1  CEFR と複言語・複文化主義 033
     4.2  日本における複言語・複文化主義の文脈化 034
  5  おわりに  039

第2章  EPA看護師・介護福祉士候補者への「配慮」の諸相――日本語の作り直しを視野に/布尾勝一郎  045
  1  はじめに  045
  2  EPA に基づく看護師・介護福祉士候補者の受け入れの概要  047
     2.1  受け入れの概要 047
     2.2  定住の道を開く医療福祉関係者の大量受け入れ―出入国管理政策の転換点 048
     2.3  日本語教育の観点から見た特徴 049
  3  制度の問題点  051
     3.1  候補者に求められる能力のあいまいさ(=学習の目標のあいまいさ) 051
     3.2  学習支援者・リソースの不足の問題 051
     3.3  調査の不十分さ 052
     3.4  国家試験の不適切さ 053
     3.5  関係者間の連携・ノウハウ継承の問題 053
     3.6  小括 054
  4  受け入れの結果と日本政府の対応  055
     4.1  国家試験合格者数低迷、大量の帰国者 055
     4.2  日本政府によるこれまでの追加施策 056
  5 EPA 候補者のための配慮の諸相  058
     5.1  国家試験の日本語の簡略化へ向けて 058
     5.2  「やさしい日本語」による教材 064
     5.3  業務の日本語の見直し 065
  6  まとめ  066

第3章 敬語(不)使用の意識と相互交渉
――多元文化社会において日本語第二言語話者の敬語観をいかに捉えるか/藤原智栄美  073
  1  本稿の問題意識及び目的  073
  2  日本語学習者の敬語使用意識及び評価に関する研究の概観  076
  3  調査  079
     3.1  調査方法及び対象者  079
     3.2  調査項目及び分析方法 080
  4  敬語及び自己の敬語使用に関する意識  081
     4.1  敬語の使い分けに対する意識 082
     4.2  敬語使用時の不安感 082
     4.3  親疎関係と敬語使用 084
     4.4  敬語体系の維持の是非に関する意識 086
     4.5  敬語の規範に対する意識 086
  5  L1 話者と L2 話者の相互交渉:他者の敬語(不)使用をいかに評価するか  088
     5.1  日本語第二言語話者の敬語不使用に対する評価 089
     5.2  サービス場面で使用される敬語に対する評価 091
     5.3  留学生と日本人学生の普通体使用に対する評価 092
  6  結果のまとめと考察  095
     6.1  敬語に対する心理的距離 095
     6.2  敬語の規範をいかに捉えるか 097
     6.3  留学生の敬語(不)使用と日本人学生の相互交渉 098
  7  結び  099

第4章 医療現場における方言の「やさしさ」/石部尚登  103
  1  はじめに  103
  2  医療と「方言」  107
     2.1  患者の用いる「方言」に対するまなざし 107
     2.2  ことばが「通じない」ということの意味 110
     2.3  公的な場としての病院 112
  3  医師−患者関係  114
  4  新しい可能性としての医療コミュニケーション  116
  5  おわりに  119

第5章 ろう教育における「やさしさ」の諸相――社会言語学の視点から見えるもの/中島武史  125
  1  はじめに  125
  2  筆者の立ち位置  128
  3  ろう学校  131
     3.1  現在のろう学校概要 132
     3.2  ろう教育史の概説 133
     3.3  ろう学校の在籍者数減少とインテグレーション 134
  4  口話主義者による「やさしさ」の形  138
     4.1  ろう児の 社会参加という「やさしさ」 138
     4.2  口話主義と「国語」・「近代的言語観」 141
     4.3  口話主義者の「やさしさ」と「手話言語」・「多言語社会」 146
     4.4  近代的言語観とインテグレーションの関係 148
  5  「言語権」という「やさしさ」の形  149
     5.1  口話法の補助機能としての手話導入 149
     5.2  「言語」としての手話の導入 150
     5.3  ろう学校教員が手話技能に関して置かれている困難さ 151
     5.4  「言語権」について 154
     5.5  「言語権」とろう学校教員 155
  6  おわりに  159

第6章 「どづぞ」な多言語表示から見る商品化された「やさしさ」――「メシノタネ」となった言語/植田晃次  165 
  1  はじめに  165
  2  「どづぞ」とは  168
  3  朝鮮語「どづぞ」の類型( 1 ):ツメ甘型  170
     3.1  ソックリ文字系 170
     3.2  脱字増字系 172
     3.3  誤訳系 173
     3.4  暗号系 179
     3.5  コピペ系 185
     3.6  小結 186
  4  朝鮮語「どづぞ」の類型( 2 ):非規範型  186
     4.1  イビツ字形系 186
     4.2  分かち書き不全系 189
     4.3  日本語表記不全系 191
     4.4  不可思議系 197
     4.5  小結 197
  5  考察  198
     5.1  規範の位置づけ 198
     5.2  言語の商品化 200
     5.3  「どづぞ」産出のプロセス 201
     5.4  「どづぞ」産出の問題の所在 203
  6  おわりに  204

第7章 「硬直した道」から「やさしい道」へ――原発とコミュニケーション/野呂香代子  209
  1  はじめに  209
     1.1  本稿における「やさしさ」 209
     1.2  問題のありか 211
     1.3  分析の目的と分析対象 212
  2  硬直した道  213
     2.1  硬直した道の談話 213
     2.2  国会事故調における文科省の答弁 214
     2.3  委縮するコミュニケーション 225
  3  「やさしい道」への可能性  228
     3.1  ユンクが描く「やさしい道」 228
     3.2  三宅洋平の選挙フェス 229
  4  まとめ  238

第8章 「それでも日本で留学生活を続ける私」をめぐる「やさしさ」
――東日本大震災後に語られた留学生達のライフストーリーより/松本明香  241
  1  はじめに  241
  2  問題の所在と目的  242
  3  手法  245
  4  調査協力者とインタビューの方法  246
  5  それぞれのライフストーリー  248
     5.1  Q のライフストーリー 248
     5.2  D のライフストーリー 250
     5.3  C のライフストーリー 253
  6  考察  255
     6.1  日常性の維持への志向 255
     6.2  帰国への疑問 257
     6.3  他者との関係性の再認識 260
     6.4  自己肯定感 264
     6.5  留学生達のライフストーリーからの提言 267
  7  「やさしさ」について考える  269

おわりに/義永美央子  275

     索引  277
     執筆者紹介  282


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