移動する人びとの教育と言語
中国朝鮮族に関するエスノグラフィー

[著者]趙貴花

改革開放につづくグローバル化の進行により、中国における人の移動は激動の時代を迎えている。本書は、中国朝鮮族、なかでも東アジア3カ国語に熟達した高学歴朝鮮族に焦点をあて、その中国、韓国、日本に広がる移動のパターンと、それぞれの移動先における社会的文化的相互作用のダイナミックな実態を、教育人類学のフィールドワークに基づき詳細に報告する。北京郊外に登場する新居住区、子どものための言語教育戦略や、ハイブリッド化していくアイデンティティの様相など、東アジアの将来を見据える上で必読の書である。

定価=本体 3,500円+税
2016年2月10日
A5判上製/264頁/ISBN978-4-88303-398-0


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[目次]

序章 グローバル化時代の朝鮮族の移動と言語教育 09
  1. 移動する人びと 09
  2. 新しいライフスタイルとしての移動 11
  3. 中国の改革開放と朝鮮族の移動 13
  4. 先行研究の検討 18
     4.1. 中国の少数民族と二言語教育 18
     4.2. 朝鮮族の移動と教育 21
     4.3. 移動とアイデンティティ 28
     4.4. 言語とアイデンティティ 31
     4.5. 移動、言語、教育 32
  5. 研究の対象と方法 36
     5.1. 延吉市 39
     5.2. ハルビン市 40
     5.3. 北京市 41
     5.4. ソウル特別市 42
     5.5. 東京都 43
  6. 本書の構成 45

第T部 中国東北部における朝鮮族学校の二言語教育

第1章 中国における朝鮮族学校の二言語教育の実態とその変容
――延吉市とハルビン市の事例 49
  1. はじめに 49
  2. 改革開放と朝鮮族の移動 50
  3. 朝鮮族学校の教育および朝鮮族生徒のアイデンティティ 52
     3.1. 朝鮮族学校の教育状況 52
     3.2. 朝鮮族生徒の国民的帰属意識とエスニック・アイデンティティ 59
          a. 朝鮮族生徒の国民的帰属意識 b. 朝鮮族生徒のエスニック・アイデンティティ
  4. グローバル化時代の学校選択 62
     4.1. 漢族学校を選択する要因 63
     4.2. 朝鮮族学校を選択する事例 66
     4.3. 朝鮮族学校を選択する漢族生徒と韓国人留学生の登場 70
          a. 漢族生徒 b. 韓国人留学生
  5. むすび:少数民族教育の新しい意味 76

第U部 朝鮮族の中国内における移動と言語意識の変化

第2章 北京の「韓国城」(コリアンタウン)
――改革開放が生み出した新しい都市コミュニティ 81
  1. はじめに 81
  2. 望京における「韓国城」の誕生 84
     2.1. 望京:「小さな村」から「副都心」へ 84
     2.2. 「韓国城」という名前の東アジアのハイブリッド文化街の成立 87
  3. 望京「韓国城」の人びと 93
     3.1. 韓国人の商業戦略の変化 93
     3.2. 「韓流ブーム」と中国人のライフスタイルの変化 95
          a.「哈韓族」と望京 b. 飲食と居住にみる中国人のライフスタイルの変化
     3.3. 朝鮮族と韓国人の関係 98
     3.4. 朝鮮族の人びとから見た望京 101
     3.5. 望京「韓国城」に関する多様な情報ネットワーク 105
  4. むすび 107

第3章 北京へ移動した朝鮮族の言語意識と子どもの教育
――中国語、英語の重視と「民族語」の維持をめぐって 109
  1. はじめに 109
  2. 北京の朝鮮族と北京韓国語学校 111
     2.1. 中国における韓国語の需要の拡大と大学での韓国語学科の設置 111
     2.2. 北京韓国語学校におけるグローバル人材の育成 112
          a. 多様な受講生と開かれた言語空間 
  3. 北京における朝鮮族の言語意識と子どもの教育 117
     3.1. 中国語と英語の重視による漢族学校選択 117
     3.2. 家庭教育と学校外教育による朝鮮語の継承 123
          a. 家庭内における朝鮮語の維持と継承 b. 補習クラスへの親の期待と子どもの学習意欲の低下 
          c.「民族語」の習得とエスニック・アイデンティティ
  4. 中国の戸籍制度と移動する子どもたち 131
  5. むすび 135

第V部 朝鮮族の国際移動とアイデンティティの変容

第4章 高学歴者が「帰郷」するとき
――韓国在住の朝鮮族のアイデンティティの揺らぎをめぐって 139
  1. はじめに 139
  2. 朝鮮族について 141
  3. 「帰郷」先における社会的排除と包摂 143
     3.1. 朝鮮族の韓国への「帰郷」 143
     3.2. 「朝鮮族」と「中国同胞」というカテゴリー 146
     3.3. 言語の「違い」による摩擦 151
  4. 高学歴朝鮮族のアイデンティティの揺らぎ 153
  5. 子どもへの教育戦略 161
  6. むすび 164

第5章 ソウルのガリボン「同胞タウン」
――朝鮮族労働者と韓国人市民団体が共同で創りあげた街 167
  1. はじめに 167
  2. ガリボンドンにおける朝鮮族の文化 169
  3. 労働者たちの出発点となるガリボンドンの「くぐり部屋村」 174
  4. ガリボンドンにおける朝鮮族と韓国人市民団体の相互関係 179
     4.1. ガリボンドンの韓国人ジャーナリスト 180
     4.2. 朝鮮族教会:運動と情報交換の場 183
  5. 朝鮮族労働者たちのライフスタイルの変化 187
  6. むすび 190

第6章 高学歴朝鮮族の先を見つめる子育てとハイブリッド・アイデンティティ 191
  1. はじめに 191
  2. 日中韓3国を1つの生活圏とする朝鮮族 193
     2.1. 留学・就職を主とする移動 194
     2.2. 両親の滞在地が「帰る場所」となる移動 197
  3. 日本在住の朝鮮族の子どもへの教育選択 200
     3.1. 「より良い教育」を求めて 200
     3.2. 子どもの潜在能力を伸ばす教育 205
  4. 高学歴朝鮮族の子どもへの言語教育戦略 209
     4.1. 中国語を重視する家庭 210
     4.2. 朝鮮語/韓国語を重視する家庭 214
     4.3. 日本語を重視する家庭 218
  5. ハイブリッド・アイデンティティの構築 220
     5.1. 高学歴朝鮮族のハイブリッド・アイデンティティの創造 220
     5.2. 子どもの名前と親のアイデンティティ 225
     5.3. 朝鮮族の多様な食生活 228
  6. むすび 233

終章 移動からみる朝鮮族のアイデンティティと教育戦略 235
  1. 移動と新しい生活空間の創造 236
  2. 社会的まなざしとアイデンティティの構築/再構築 238
  3. 移動と教育戦略 241

あとがき 246
参考文献 250


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