アンリ・マティス『ジャズ』再考

芸術的書物における切り紙絵と文字のインタラクション

[著者]大久保恭子

「切り紙絵は私に色の中で素描することを可能にした」
20点の挿画と画家直筆のテクストが印刷された総合芸術作品『ジャズ』は出版直後から高い評価を得たが、挿画の原画である切り紙絵作品は「晩年の気晴らし」として、研究者の多くに近年まで等閑視され続けてきた。本書はこのマティスの切り紙絵の世界に新しい光をあて、芸術的書物『ジャズ』とは一体何か、主題、手法、時代性などあらゆる側面から問い直す。

[書評・紹介]
『日本経済新聞』2016年4月17日、書評欄
『美術の窓』「新刊案内」、2016年6月号、生活の友社
《山形新聞》2016年6月5日、評者:山本和弘氏
《週刊読書人》「2016年上半期の収穫から」2016年7月22日、選者:河本真理氏
《週刊読書人》「新しい視点・方法論の意欲作」、2017年12月23日号、評者:河本真理氏
《図書新聞》2016年11月19日、評者:天野知香

定価=本体 5,200円+税
2016年3月31日
A5判上製/384頁 (カラー口絵24+本文360) /ISBN978-4-88303-402-4


イメージを拡大

[目次]

  口絵 『ジャズ』原画と『ジャズ』図版の比較

  序章 マティス研究の新段階  9

第一部 『ジャズ』のイメージ

  第一章 作品分析をめぐる問題  20
      一 切り紙絵の研究史  21
           (1)二十世紀の切り紙絵研究  21 /(2)制作手法  22 /(3)制作手順  29 /
           (4)先行作品との関連  30 /(5)『ジャズ』の原画主題とテクスト  32
      二 切り紙絵研究の現在と『ジャズ』分析の問題点  33
      三 実見によって得られた記録  36
           (1)《道化師》  36 /(2)《シルク》  37 /(3 ) 《ロワイヤル氏》  37 /
           (4)《白象の悪夢》《馬と曲馬乗りと道化師》  37 /(5)《狼》  38 /(6)《心》《運命》  38 /
           (7)《イカロス》  39 /(8)《フォルム》  39 /
           (9)《ピエロの埋葬》《コドマ兄弟》《水槽の中を泳ぐひと》《刀呑み》《カウボーイ》《ナイフ投げ》  40 /
           (10)《礁湖》  40 /(1 1 )《トボガン》  41 /(1 2 )《ドラゴン》  41
   第二章 原画主題の原初性  44
      一 原初的な主題  47
           (1)プリミティフなるもの  47 /(2)主題における原初性  50
      二 プリミティフをめぐる概念形成と変容  52
           (1)プリミティヴィスムとは?  52 /(2)プリミティヴィスムの変容  54
      三 原画主題とシュルレアリスム  56
           (1)マティスとシュルレアリスム  56 /(2)マティスにおける無意識  58 /
           (3)意味の多様性と多重性  59 /(4) 原画の意味生成システム  65
   第三章 原画制作に潜む遅延  71
      一 『ジャズ』制作の軌跡  73
           (1)テリアードからの提案  74 /(2)制作開始  78 /(3)制作進行  79 /(4)制作終了  82
      二 制作当時の芸術的環境  83
           (1)「意識」と「無意識」  83 /(2)マティスとブルトン  85 /(3)マティスとマッソン  86
      三 制作時のマティスの芸術的関心  88
           (1)「シーニュ」の特性  88 /(2)対象との一体化  91
      四 マティスによるベルクソンの受容  92
           (1)マティスとベルクソン  92 /(2)「持続」と「直観」  94 /(3)原画の「完成」とは?  97
   第四章 主題の祝祭性  108
      一 原画主題の検討  110
           (1)主題解釈に関する資料  110 /(2)先行研究と新しい視点  114
      二 原画主題の可変性  118
           (1)飛翔と墜落  118 /(2)サーカス  121 /(3)死と復活・再生  124 /(4)境界性  126
      三 イメージ・プログラム  129
           (1)グロテスク  129 /(2)祝祭的交替性  132

間奏曲
   第五章 マティス芸術における「シーニュ」の変容  138
      一 「画家のノート」での「シーニュ」  139
           (1)「シーニュ」の意味  140 /(2)言説上の「場」  141 /(3)作品制作と「シーニュ」  146
      二 キュビスム期の「シーニュ」  150
           (1)ピカソのコラージュと「シーニュ」  151 /(2)言説上での「シーニュ」の変容  155 /
           (3)キュビスム期のマティスの動向  158
      三 一九三〇年以降の「シーニュ」  165
           (1)三〇年代の芸術場  166 /(2)切り紙絵の「シーニュ」  168

第二部 『ジャズ』のイメージと文字
   第六章 テクストに見る双対性 ―テクストについての考察 その一  176
      一 テクスト分析  178
           (1)「覚え書き」  179 /(2)「光」  183 /(3)「神」  185 /(4)自発性と即興性  188
   第七章 テクストと挿絵制作 ―テクストについての考察 その二  194
      一 テクスト作成時の芸術的環境  195
           (1)挿絵制作  195 /(2)ドルレアン『詩集』  201 /(3)マティスとルオー  204
      二 テクストとイメージ  211
           (1)両義的特質  211 /(2)等価  213
   第八章 『パラード』と第一次世界大戦 ―表題についての考察 その一  217
      一 『ジャズ』と『パラード』  219
           (1)『パラード』  219 /(2)類似と差異  223
      二 第一次世界大戦期の芸術的傾向  224
           (1)『パラード』批評  224 /(2)ピカソによる装飾  225 /(3)マティスとその知人たち  227 /
           (4)ナショナリズム  228 /(5)ナショナル・アイデンティティと「ライシテ」  232 /
           (6)第一次世界大戦期の芸術の評価  233
   第九章 『ジャズ』と第二次世界大戦 ―表題についての考察 その二  239
      一 第二次世界大戦とマティス  240
           (1)第二次世界大戦期のフランス  240 /(2)カタストロフ  243 /(3)戦下の『ジャズ』  245
      二 なぜ「ジャズ」だったのか?  248
           (1)表題決定のいきさつ  248 /(2)表題の意味と背景  250
      三 『ジャズ』とジャズ  254
           (1)リズム  254 /(2)即興性  257
   終章 出版後の『ジャズ』  261
      一 『ヴェルヴ』誌での原画と複製  263
           (1)「色彩について」特集号での実験  263 /(2)切り紙絵の複製  265
      二 『ジャズ』原画と複製の関係  266
           (1)原画の複製  266 /(2)展示が提起する問題  269 /(3)「完成作」はどちらか?  272
      三 おわりに  274

  あとがき  277

     注  1
      参考文献一覧  35
      索引  45
      図版出典  52

  資料編
      『ジャズ』全頁縮小見本  56
      『ジャズ』テクスト全文(日本語/フランス語)  66
      『ジャズ』関連年表  74


HOME