[目次]
序章 台湾語流行歌 ―― 台湾人のある社会文化史 1
一 研究動機及び問題提起 1
1 日本人の心を表す「演歌」 1
2 「伝統」的な「台湾語演歌」 3
二 研究課題と方法 6
1 音声の歴史・歴史の音声 6
2 基本概念及び章立て 8
注 13
第一章 台湾語流行歌の生成と発展 ―― 新民謡運動・閨怨女・太平洋戦争 15
一 はじめに 15
二 蓄音器と台湾の音声 ― 台湾語流行歌の前夜 16
1 他者の声しか聴けない蓄音器 16
2 蓄音器が発する珍奇な台湾の声 18
三 他者が作る台湾の「新民謡」 20
1 新民謡運動の一環としての台湾 20
2 他者によって創作された台湾「新民謡」 23
四 恋愛至上の台湾語流行歌 28
1 「街頭の文明女」と「室内の閨怨女」 28
2 離郷、労働、流浪、男性性の欠如 35
五 台・日流行歌の「同」と「不同」 40
1 いずれも伝統や俗謡から養分摂取 40
2 楽曲作成の自主と台湾性 44
3 戦時下における流行歌の融合と交流 47
六 結論 54
注 59
第二章 半封建的な農業社会で暮らす台湾人 ―― 「平穏」な籠の中で歌う 67
一 はじめに 67
二 家に閉じ籠る台湾女性 69
1 養女と歌仔戯、芸旦、流行歌 69
2 自宅近辺が生活、労働の範囲 72
三 籠の中で「平穏」な生活を送る庶民 76
1 未工業化と離郷のない庶民 76
2 籠の中の「平穏」な暮らし 79
3 異なる離郷の意味―台湾と朝鮮 84
四 啓蒙、識字、教化の道具として 88
1 百家争鳴の裏に―文化的地位の低い層の啓蒙 88
2 知識人にとっての流行歌―啓蒙、識字の道具 90
五 民謡から見た台湾の閨怨物語 ― 閉塞、挫折、憂悶、無力 95
1 民謡の援護がない台湾語流行歌 95
2 台湾社会の感情の構造 98
六 結論 103
注 105
第三章 再植民地統治と台湾語流行歌 ―― 「閨怨」から「苦恋」への戦後初期 113
一 はじめに 113
二 終戦後の台湾語流行歌の沈黙 114
1 集団「蒸発」した台湾語流行歌の先駆者 114
2 二二八事件、失語の世代 118
3 白色テロ 122
三 差別統治と空白期の台湾語流行歌 125
1 国家権力の中心からの差別化 125
2 「空白期」の台湾語流行歌―貧困、失業、エスニシティ 131
四 社会の感情の構造としての「苦恋」 137
1 捨てられ、騙され、裏切られた「苦恋」 137
2 「安平追想曲」と「河邊春夢」 141
3 「夢が叶った」後の災難 144
4 小説に見る「苦恋」の感情の構造 147
五 農村人口の流出と階級の固定化 150
1 農地政策と農村の疲弊 150
2 農村人口の流出と階級の固定化 154
六 結論 160
注 162
第四章 「港歌」に見る再植民地統治下の台湾語流行歌 ―― 海/港から日本へ 169
一 はじめに 169
二 オリジナル曲とカバー曲の協同の「港歌」 170
1 貧困、漂泊、不安の台湾版港歌 170
2 日本の港歌とそのインパクト 179
三 都市の海を漂泊する農民 183
1 象徴コードとしての海/港 183
2 初体験の遠距離感、孤立感 187
四 現実の閉塞生活からの逃避 192
1 「監獄島」逃避への渇望 192
2 「去って帰らず」という必然 196
五 過去への追慕と新「台湾民謡」 200
1 「脱日本化」の台湾民謡運動 200
2 「再日本化」の台湾新民謡 204
六 「懐旧親日」の変換 210
1 台湾語流行歌と新しい節回し 210
2 全面的な日本傾倒 213
七 結論 220
注 222
第五章 台湾語流行歌の全盛期と日本 ―― 工業化社会の望郷演歌と股旅演歌 229
一 はじめに 229
二 台湾の工業化と「望郷演歌」 230
1 朝鮮戦争がもたらした相乗効果 230
2 社会の「現実」を共有する「望郷演歌」 234
3 「拜託月娘找頭路」が浮き彫りにする問題 238
三 「集団就職列車」は走ったか― 高度経済成長の台・日の差異 245
1 「集団就職列車」に乗って都市へ 245
2 一人で都市へ向かう台湾人 248
3 カバー対象の拡大―アウトローのルサンチマン 255
四 天涯孤独な「股旅演歌」 260
1 「股旅物」とアウトロー 260
2 女性化した股旅演歌 264
3 他者の「過去」と重なる「現在」 268
五 結論 272
注 274
第六章 自力救済か、他力本願か ―― 一九七〇年代のテレビ布袋戯と社会問題 281
一 はじめに 281
二 台湾史上最高視聴率を記録した布袋戯 283
1 伝統的な布袋戯から雲州大儒侠へ 283
2 「淪落」した遊侠―布袋戯のアウトロー 286
三 アウトローの心を伝える布袋戯楽曲 288
1 ヘテログロシアの布袋戯歌謡 288
2 悔恨の渡世人 291
3 女性アウトローのテーマ曲 295
四 工業化をめぐる挫折組のユートピア 301
1 「ポスト望郷演歌」としての布袋戯歌謡 301
2 布袋戯のファンタジー性―武林、女侠、欠陥 304
3 「不能/欠陥」と「超能」の反転 306
五 飛躍した経済成長の翳り 309
1 経済発展の奇跡 309
2 資本家天国の台湾労働者 311
3 「不能」と化した労働者 314
六 布袋戯と国家イデオロギーの緊張関係 318
1 物語とテーマ曲に投影された社会像 318
2 救済者の出現と『雲州大儒侠』の終焉 321
七 救済者は誰か 326
1 救済者としての国家、政府 326
2 自力救済か他力本願か 331
八 結論 334
注 336
第七章 結論に代えて ―― 再植民地統治下の国語・台湾語流行歌 343
一 「平穏」から「放浪」へ―戦前戦後の人口移動 343
1 「放浪の歌」と「閨怨」 343
2 農村疲弊から始まった人口移動 345
二 異なるエスニシティ異なる節回し 346
1 弱者の自力救済 346
2 こぶし/ゆりを「敬遠」する国語流行歌 349
三 二つの国に捨てられた本省人 353
1 本省人に残された心の傷痕 353
2 再植民地統治下の哀歌 356
四 心の傷の癒合と新しい民謡 359
1 民主化された後の「流浪之歌」 359
2 「赤い夕陽の故郷」から「帰郷する私」へ 362
3 『多桑』と戦後立ち上がった民謠運動 366
注 371
あとがき 373
曲名索引 XI
人名索引 I |