「フランコプロヴァンス語」は存在するか

フランス・イタリア・スイスの国境を越える言語の再活性化と言語意識――フランスの地域を中心に

[著]佐野彩

フランコプロヴァンス語は、学術的文脈において19世紀後半に存在が指摘され、論争を経てひとつの「言語」として認知されるようになった。特定の民族・集団や歴史的一体性のある地域とは一対一で結びつかず、話者にはひとつの「言語」として認識されてこなかった言語に対する捉え方の変化が、20世紀後半以降、言語運動が展開するなかで、それに携わる人々の言語意識をどのように変容させているのか、さらにそれが言語の再活性化にいかなる影響を及ぼすのか。歴史・社会的背景の異なる地域や異なる成り立ちの運動を取り上げることで、そこで見られる言語の様々なあり方を提示する。

定価=本体 7,200円+税
2023年2月28日A5判上製/436頁/ISBN978-4-88303-565-6


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[目次]

はじめに  1

第1部 言語再活性化における言語意識をめぐる問題とフランコプロヴァンス語  7

第1章 危機言語の再活性化と言語意識  8
1. 「言語再活性化」と「言語意識」  8
   1.1. 「言語再活性化」  8
   1.2. 「言語意識」  10
2. 言語維持・再活性化の要因と言語意識  12
3. 言語の「名づけ」  14
4. 「文化遺産」としての言語  15

第2章 フランコプロヴァンス語の社会言語学的状況  17
1. フランコプロヴァンス語とは  17
   1.1. フランコプロヴァンス語の言語境界  19
   1.2. 言語的特徴と言語の成立過程  21
   1.3. 言語の名称  25
      1.3.1. 「パトワ」  25
      1.3.2. 地方名に基づく名称  26
      1.3.3. 「フランコプロヴァンス語」 / 「アルピタン語」  27
2. フランコプロヴァンス語の現状  28
   2.1. ユネスコの基準  29
   2.2. フィッシュマンの尺度  31
   2.3. エスノリングイスティック・バイタリティ  32
   2.4. 話者数をめぐる問題  34
3. 国別に見たフランコプロヴァンス語の言語使用状況  36
   3.1. フランス  36
   3.2. イタリア  37
   3.3. スイス  38
4. フランスのフランコプロヴァンス語圏における言語使用状況の変遷と現状  41
   4.1. ダイグロシアと言語シフト  41
   4.2. 言語シフトが進んだ地域におけるフランコプロヴァンス語の言語使用  44
      4.2.1. ドメイン  45
      4.2.2. 言語レパートリーと言語使用  46
      4.2.3. トピックとポストヴァナキュラー的言語使用  48
5. 書きことばとしてのフランコプロヴァンス語  49
   5.1. フランコプロヴァンス語で書かれたもの  49
   5.2. 書記法をめぐる問題  54
6. フランコプロヴァンス語の社会言語学的研究  56
   6.1. 背景  56
   6.2. ローヌ・アルプ地域圏を対象とする研究  57
   6.3. 一部の地方を対象とする研究  59
   6.4. 「新話者」と「アルピタン運動」に関する研究  62
   6.5. フランコプロヴァンス語を指す名称についての研究  63

第3章 研究課題と調査法  65
1. 研究課題  65
2. 研究の方法とデータ  67
   2.1. 概要  67
   2.2. 「言語学者」及び「公的機関」  68
   2.3. 「民間言語文化団体・運動家」  69
   2.4. インタビュー調査  72
   2.5. 危機言語の話者タイプとインタビュー協力者  74

第2部 「フランコプロヴァンス語」の認知と普及  77

第4章 「言語学者」――「フランコプロヴァンス語」の創出  78
1. 「フランコプロヴァンス語」の存在の是非をめぐる学術的論争  78
   1.1. アスコリによる「フランコプロヴァンス語」の存在の指摘以前  78
   1.2. アスコリによる「フランコプロヴァンス語」の存在の指摘と命名  80
   1.3. アスコリに対する批判 ― 「方言」の否定  82
   1.4. 「フランコプロヴァンス語」の認知  85
   1.5. その後も続く存在の否定 ― 言語学的 “ 概念 ” としての「フランコプロヴァンス語」  87
2. 言語の名称をめぐる問題  89
3. 言語学者の役割  92

第5章 「公的機関」――「フランコプロヴァンス語」の公的認知  97
1. フランス  97
   1.1. 国レベルでの認知  97
   1.2. 地域圏レベルでの認知  99
      1.2.1. ローヌ・アルプ地域圏の地域語政策  99
      1.2.2. ローヌ・アルプ地域圏の地域語をめぐる言説  100
      1.2.3. 言語の名称をめぐって  106
2. イタリア  108
   2.1. 国レベルでの認知  108
   2.2. ピエモンテ州及びプーリア州での認知  109
   2.3. ヴァッレ・ダオスタ州におけるフランコプロヴァンス語とフランス語  110
      2.3.1. ヴァッレ・ダオスタ州におけるフランス語  110
      2.3.2. ヴァッレ・ダオスタ州におけるフランコプロヴァンス語  112
      2.3.3. ヴァッレ・ダオスタ州におけるフランコプロヴァンス語の捉え方  114
      2.3.4. フランコプロヴァンス語とフランス語の関係 ― 連続体か別言語か  118
3. スイス  122
   3.1. スイスにおけるフランコプロヴァンス語 ― 欧州地域語少数言語憲章をめぐって  122
   3.2. フランス語と「パトワ」の関係 ― フランコプロヴァンス語とオイル語の境界  127
   3.3. ヴァレ州におけるフランコプロヴァンス語政策  128
4. 小括――フランス、イタリア、スイスの公的文脈におけるフランコプロヴァンス語  129

第6章 「民間言語文化団体・運動家」――ローカルな地域から「フランコプロヴァンス語」圏へ  131
1. フランス  131
2. イタリア  138
3. スイス  143
4. 国・地方を越える交流・連携  147
   4.1. 国際フランコプロヴァンス語祭  148
   4.2. フランコプロヴァンス語の話者・団体の連盟と評議会  153
5. 小括――「フランコプロヴァンス語」の認知と普及  156

第3部 民間言語運動の進展と人々の言語意識の変化――フランスのフランコプロヴァンス語圏を中心に  159

第7章 サヴォワ地方における言語運動と言語の捉え方――言語の政治問題化と名称の競合  160
1. サヴォワ地方とは  160
2.1970 年代に入るまでの時代 ― 先駆的活動  164
3.1970 年代 ― 「パトワ」の政治問題化  166
4.1980 年代 ― 「パトワ」から「サヴォワ語」へ  174
5.1990 年代以降の言語運動 ― 「サヴォワ語」と「フランコプロヴァンス語」  187
6. 言語文化団体の活動における言語使用と言語意識 ― 「パトワ」と「サヴォワ語」  197
7. サヴォワの独立運動と「アルピタン語」  214
8. 小括 ― サヴォワ地方の地域主義運動と言語  231

第8章 フランコプロヴァンス語圏西部地域における言語運動と言語の捉え方  234
1. ブレス地方――堅固な地域的アイデンティティと伝統的文化遺産としての言語  234
   1.1. ブレス地方とは  234
   1.2. ブレス地方の言語運動の歴史と現状、言語の捉え方  236
   1.3. 言語純粋主義と固定化された言語観 ― 「パトワ」の現代的価値と課題 253
2. リヨネ地方――地域的アイデンティティが堅固でない地域における言語運動  262
   2.1. リヨネ地方とは  262
   2.2. リヨネ地方における言語運動の歴史  264
   2.3. リヨネ地方における言語運動の現状  268
   2.4. リヨネ地方の言語運動におけるフランコプロヴァンス語の捉え方と言語の名称  277
3. 小括――サヴォワ地方、ブレス地方、リヨネ地方における言語運動と言語の捉え方  282

第9章 「アルピタン運動」――地方を単位としない運動  286
1. 複数の「アルピタン運動」  286
2. 「アルピタン文化同盟(ACA)」を中心とする「アルピタン運動」 293
3. 「アルピタン運動家」と「言語学者」の関係 ― 対立と継承  299
4. 「アルピタン運動家」の言語使用 ―“ 生きた ” 言語の継承可能性 307

第10章 民間言語運動に携わる人々の言語意識の変化と言語再活性化への影響  314
1. フランコプロヴァンス語に対するイメージ・感情・価値観の変化 314
2. フランコプロヴァンス語に対する言語意識と言語運動に携わる動機・目標  321
   2.1. 娯楽のための活動 ― 言語への「愛着」とソリダリティ  321
   2.2. 残存する否定的言語意識と無関心な態度 ― 言語の継承への消極性  323
   2.3. 言語の継承のための活動 ― 「文化遺産」としての言語  326
   2.4. どのようなフランコプロヴァンス語を継承するか ― 「生きた言語」か「痕跡」か  328
   2.5. 若い世代の話者に見られる言語の継承に対する意識の差異  332
3. 「フランコプロヴァンス語」という概念の普及と言語意識、アイデンティティ  339
   3.1. 使用する名称  342
   3.2. 言語意識の変化  345
   3.3. 言語境界意識 ― 「フランコプロヴァンス語」と「パトワ」の地理的範囲 352
   3.4. フランコプロヴァンス語圏/アルピタン語圏への帰属意識  361
   3.5. 知識としての「フランコプロヴァンス語」と「パトワ」意識の継続  364
4. フランコプロヴァンス語の重要性の根拠 ― なぜフランコプロヴァンス語は重要なのか  368

結論  378

参考文献・資料  391
付録  416
あとがき  420