ナチズムの芸術と美学を考える

偶像破壊(イコノクラスム)を超えて

[著]石田圭子

ナチズム芸術/モダニズムという二項対立は戦後の言説によって強く規定されてきたのではないか。ナチズムの芸術表象について踏み込んで分析し、ナチズム芸術をもっぱら退行的とする議論やナチズムのイデオロギーからのみ語ろうとする単純化された議論を超えて、ナチズム芸術の多層性と同時代性、さらには現代性を明らかにし、ナチズムの脱神話化をはかる。

[紹介・書評]
『月刊 アートコレクターズ』2024年2月号、BOOK GUIDE

定価=本体 3,600円+税
2023年10月31日A5判並製/322頁/ISBN978-4-88303-582-3


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[目次]

はじめに  1

第一章 戦後におけるエミール・ノルデの「非ナチ化」と神話化をめぐって  17
   ノルデをめぐる問い  17
   ノルデの反ユダヤ主義  21
      ノルデの反ユダヤ主義の「発見」  21
      ノルデの反ユダヤ主義をどう受け止めるか ― 芸術作品の自律性をめぐる問い  26
   ノルデとナチズム ― 第三帝国における「ドイツ美術」をめぐる議論  29
      ナチス内部におけるノルデと表現主義の擁護  29
      モダン・アート推進派におけるナショナリズム  34
   「描かれざる絵」の神話  41
   終戦?冷戦期におけるドイツ美術の非ナチ化と国際美術復帰への努力  49
      ドイツ占領下における非ナチ化と「退廃芸術」の復権  49
      冷戦期における東西の美的規範の対立 ― リアリズムと抽象  53
      冷戦期におけるドイツ美術の復権 ― ヴェルナー・ハフトマンとドクメンタ  55
      ナチズムの継承? ― 「ドイツ性」とドイツ美術の優位性の主張  64

第二章 第三帝国の「戦争画」を考える  73
   戦後における第三帝国の「戦争画」の行方とそれをめぐる問い  73
   第三帝国の「戦争画」プロジェクトについて  79
   第三帝国の「戦争画」の目的と方針  85
   第三帝国の「戦争画」作品  89
   第三帝国の「戦争画」とナチズムのイデオロギー  103
      イギリスの戦争画との比較  108
           ( 1 )「男らしさ」の表象  108
           ( 2 )死の表象  119
第三章 パウル・ルートヴィヒ・トロースト―ナチズム建築の起源をめぐって  131
   ナチズム建築の創始者トロースト  131
   「総統の第一の建築家」になるまで  134
   総統と建築家  141
   トローストの「汽船スタイル」  150
   「汽船スタイル」からナチスの建築へ  162
   保守とモダンの間で  179

第四章 アルベルト・シュペーアの「廃墟価値の理論」  191
   ナチズムの建築と廃墟への想像力  191
   シュペーアの「廃墟価値の理論」と第三帝国の「建築絵画」  193
   廃墟の時間性について  205
      持続性とうつろい  205
      「断片の昂進」と寓意としての廃墟  207
   シュペーアの建築における時間性について  214
      シュペーアとロマン主義  214
      象徴と未来の形象化としての建築  217
      時間と歴史の排除  224

第五章 ナチズムと崇高の美学  231
   ナチズムについて崇高を語れるか  231
   崇高と政治 ― 近代の崇高論の限界  233
   ナチズムにおける「政治の美学化」 ― 「美」か、それとも「崇高」か  242
   ナチズムと崇高  248
      ナチズム の崇高論 ― 「崇高」か、それとも「妄想」か  248
      バークの崇高論とナチズムの崇高  256
      崇高における「呈示不可能なもの」と崇高の通俗化  258

あとがき  265
初出一覧  270
図版出典  275
参考文献  285
注  308
索引  313