同盟から決別へ台湾学研究叢書)

グローバル資本主義下の台湾企業と中国

[著]呉介民(Wu Jieh-min)
[訳]日野みどり

広東モデルなくして中国の台頭はなく、こんにちの中国モデルもなかった。本書は、台商の果たした役割を射程に、 珠江デルタ地域での 長期の現地調査で得た実証的データをグローバル価値連鎖理論に依拠して解読する。台商と在地体制・官僚の同盟関係とその終焉、資本家と国家による農民工への二重搾取、自前の価値連鎖の構築を図る中国の目論見とその制約要因などを論じ、「レントシーキング開発国家中国」の概念を打ち出す。世界が中国の政治・経済の先行きに強い関心を持つ今、本書は全く新しい視座を提供する。

定価=本体 7,000円+税
2024年10月15日A5判並製/610頁/ISBN978-4-88303-596-0


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[目次]

刊行によせて(2019年初版)  xiii
増訂版の刊行によせて  xvii
英語版序文 意外性と、説得力と エリザベス・ J ・ペリー  xxi
日本語版刊行によせて  xxvi

序章 台商、中国、世界  1
0.1. 台商の謎  3
0.2. 中国式の搾取  7
0.3. 新重商主義政策  9
0.4. 中国の産業戦略に挑戦する米国  12
0.5. 台商の眼  16
0.6. 本書の構成  23

第1章 世界の工場を造り出せ  31
1.1. 分析の焦点  35
1.2. 世界の工場への道を邁進せよ  39
1.3. 既存理論の命題の検証  49
1.3.1. 市場転換論  50
1.3.2. 国家中心論  51
1.3.3. 輸出志向型発展論:世界システム、グローバリゼーション、商品/ 価値連鎖  57
1.4. グローバル価値連鎖と地方成長同盟  65
1.4.1. 価値連鎖と在地の連結  66
1.4.2. グローバル ― ローカル( G-L )分析からグローバル ― ドメスティック ― ローカル( G-D-L )分析へ  68
1.4.3. 価値収奪者としての国家  70
1.4.4. 在地の政・商関係、利益分配、価値連鎖の伸張  75
1.4.5. 地方成長同盟  77
1.5. 事例・方法・資料  80
1.5.1. 事例の選択:広東モデルと台湾資本  80
1.5.2. 研究の方法、データの構造  87

第2章 広東モデルの起源・パフォーマンス・変遷  89
2.1. 一歩先へ:チャンスとリスク  91
2.1.1. 「社会主義か、資本主義か」の論争  91
2.1.2. 「一定の人数を殺せ、そうするしかない」  93
2.1.3. 特殊な政策、弾力的な措置  97
2.2. 広東モデルの起源  98
2.2.1. 香港・台湾の経験に学べ  99
2.2.2. 材料供給加工と外貨収入創出  102
2.3. 広東の経済パフォーマンス  111
2.3.1. 産業構造比率と都市部・農村部における収入  112
2.3.2 外資と加工輸出  115
( A )国内固定資本の形成  115 /( B )外国直接投資  117 /( C )外資の国別分布  118 /( D )中国側統計に過小評価される台湾資本の比重  123 /( E )対外貿易依存度  126
2.3.3. 外貨収入創出機能  128
2.3.4. 加工費の収益  131
2.3.5. 低位抑制された賃金・社会保険料率  133
2.4. 広東のマクロ環境はどのように変遷してきたか  139
2.4.1. 加工貿易の比率は縮小するも、依然重要  145
2.4.2. 加工貿易の外貨収入創出の貢献度は落ち着くも、なお顕著  146
2.4.3. 外資は依然、輸出経済の要  148
写真資料  152

第3章 台陽公司  1979-1994 年  159
3.1. 台陽公司の歴史  161
3.2. 台湾時代の経営モデル  163
3.2.1. オペレーションの方式  164
3.2.2. 国際的バイヤーとの関係  165
3.3. 広東へ進め:グローバル価値連鎖の移動  167
3.3.1. 東莞での工場設立  168
3.3.2. 原材料買い付けの変化  170
3.3.3. 高価格帯製品の開発  172
3.3.4. グローバルな皮革製品価値連鎖の伸張  172
3.3.5. 価値連鎖の伸張の結果と台湾資本中小企業の国際化  174
3.3.6. グローバル価値連鎖の伸張における香港の位置  177
3.4. 名ばかり合資企業、人頭税  178
3.5. 莞強公司、頭数を数えるゲーム  185
3.6. 1994 年の外貨体制改革  192
3.7. 納福村に工場を新設  196
3.8. 人頭税の制度的出現  200
写真資料  204

第4章 台陽公司  1995-2010 年  211
4.1. 納福村: EOI 成長モデルの基層単位  213
4.1.1. 身分による権力のピラミッド  213
4.1.2. 架空の工場長制度  216
4.1.3. レント収受階級と、多重搾取  218
4.2. 二代目への事業承継  219
4.2.1. たたき上げ台湾幹部の文化  220
4.2.2. 新旧世代のマネジメントスタイルの差異  222
4.3. 政・商関係の変化  223
4.3.1. 材料供給加工から材料輸入加工へ  224
4.3.2. 台商協会は「酒を飲むところ」  226
4.3.3. レントシーキングのゲームは続く  228
4.3.4. 管理費の漸減  229
4.3.5. 秀ちゃん工場長の気まずい役回り  230
4.4. 幹部の現地化と経営コストの増大  232
4.4.1. 幹部の現地化  233
4.4.2. 社会保険費用の増大  235
4.5. 工場閉鎖  238
4.5.1. ストライキ  238
4.5.2. 消灯ラッパ  240
4.6. 人頭税の消滅と社会保険料の出現  242
4.6.1. 消えゆく人頭税  242
4.6.2. 社会保険料制度の出現  245
写真資料  247

第5章 民工階級:身分における差序・二重の搾取・労働体制  265
5.1. 国家が作り出した民工階級  267
5.1.1. 「農民工」、政府の正式な範疇になる  267
5.1.2. 民工の権利の規制緩和から、新型都市保護主義へ  272
5.2. 民工階級の様相  277
5.2.1. 民工の流動・分布・性別比  277
5.2.2. 東南部沿海地区への高度な集中  282
5.2.3. 外資企業による民工の大量雇用  285
5.3. 二元労働市場:低賃金と残業をめぐる神話  287
5.3.1. 賃金と労働時間  287
5.3.2. 規定を超える残業:資本側と政府の共謀  290
5.3.3. フォックスコン事件と残業の神話  297
5.4. 公民としての身分における差序、二重の搾取  301
5.4.1. 概念の起源および定義  301
5.4.2. 公民としての身分における差序の制度的特徴  305
5.4.3. 二重の搾取の論理  307
5.5. 差別的待遇:教育と社会保険  311
5.5.1. 民工の子女の教育における差別的待遇  311
5.5.2. 社会保険における差別的待遇  314
5.5.3. 上海  315
5.5.4. 沿海 4 都市の比較  321
5.5.5. 珠江デルタ地域内部の異同  324
5.6. 労働体制の再検討  326
5.6.1. 寮の労働体制  327
5.6.2. 支配と抵抗  332
5.6.3. カオスと安心感の弁証法  334
5.6.4. 専制か、覇権か  337
5.6.5. 国家の役割と偽りの契約関係  342
写真資料  345

第6章 広東モデル転換期の台湾企業と中国企業  363
6.1. 国家政策と政・商関係の変化  365
6.1.1. 国家の新政策、労働者の抵抗、労働コストの上昇  365
6.1.2. 裕元ストライキ事件  368
6.1.3. かごを空け、鳥を入れ替える:産業アップグレード政策  375
6.1.4. 地方のレントシーキング空間をつぶしにかかる中央政府  380
6.2. 台湾企業の移転なき業態転換:スマイル製靴の事例  383
6.2.1. スマイル製靴貿易公司  384
6.2.2. コア工場戦略  385
6.2.3. 大陸資本メーカー、競争力を上昇  390
6.3. 台湾企業の多元的な転換:台?製靴集団の事例  393
6.3.1. 材料供給加工のオペレーション方式  394
6.3.2. 国外への移転:海外生産拠点の再配置  401
6.3.3. 中国内陸部での工場開設:生産拠点の再配置、土地が生む利益  405
6.3.4. 二代目への事業承継:改革・危機・転換  409
6.3.5. グローバル価値連鎖の階段をのぼって  414
6.4. 台湾企業と中国企業のエコシステムの変遷  418
6.4.1. 伝統産業の中国資本供給連鎖に潜む、台商の遺伝子コード  418
6.4.2. ICT の新たなエコシステム  424
( A )ネットワーク通信業界  425 /( B )携帯電話製造業:ゲリラ・システムからグローバル市場進出へ  429 /( C )海外からの帰国人材が主導する ICT ベンチャーキャピタル  431
6.5. 産業アップグレードと社会的アップグレード  436

第7章 グローバル価値連鎖とレントシーキング開発国家  443
7.1. 価値連鎖の変遷と成長同盟の再編  444
7.2. レントシーキング開発国家の解析  451
7.2.1. レントシーキング行為をめぐる従来の定義  453
7.2.2. 組織的レントシーキングの定義  455
7.2.3. 組織的レントシーキングの運用メカニズム  458
7.3. 中国と東アジア:発展経験の比較  466
7.3.1. 地政学的関係と工業化の原動力  469
7.3.2. 国家 ― 市場関係  470
7.3.3. 所有制の構造  472
7.3.4. 製造業外資と輸出経済  474
7.3.5. 労働者の搾取・分配の不平等・高い資本蓄積  475
7.3.6. EOI ・組織的レントシーキング・搾取  478
7.3.7. 発展の結果:比較と相互作用  480
7.4. 「中国製造 2025 」半導体産業アップグレードの青写真への
初歩的評価  485
増訂版・付記  496

第8章 結論 ―― 罠と挑戦  499
8.1. 中国の発展の罠  500
8.2. 「中国製造 2025 」に挑戦する米国  505
8.3. 中国とグローバリゼーション理論  515

聞き取り調査対象者コード対照表  524
引用文献  527
訳者あとがき  550
索引  558
著者/訳者紹介