「台湾」の文化史 (台湾学研究叢書)

国民料理の創造と変遷

[著]陳玉箴(Yujen Chen)
[訳]天神裕子
[解説]岩間一弘

「台湾料理」とはなにか? 本書は国宴、高級レストラン、夜市、庶民の食卓にのぼるさまざまな料理を紹介しつつ、「台湾菜(台湾の料理)」という概念が100年の間にいかに定義され、表現され、実践されてきたかを検証するものである。日本の台湾統治と第2次大戦後の権威主義的政権もまた、多くの新たな飲食の要素を台湾に持ちこみ、民主化後の、現在の「台湾」を形づくってきた。つまり「台湾料理」とは何かを問うことは、まさにこの100年余にわたって台湾社会がいかに大きな変化を経てきたかを理解することなのである。

【電子書籍版もあります】

定価=本体 5,000円+税
2024年6月15日A5判並製/488頁/ISBN978-4-88303-591-5


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[目次]

日本語版への序 iv
序 私の台湾菜の旅 1

第1章 序論 「台湾菜」の文化史 5
   第1節 「台湾菜」とは何か? 6
   第2節 飲食という新たな研究領域 9
      1  飲食体系と構造 11
      2  飲食マナー(dining manners)と儀式 12
      3  飲食の発展と社会、政治経済の変遷 13
      4  飲食と集団の記憶、アイデンティティ 14
      5  食物における社会的識別、たとえば族群、階級、性別 14
   第3節 国民、国民性、国民料理 16
   第4節 マクロからミクロへ 物と具現化の研究アプローチ 22
   注 29

第2章 植民地の高級料理 ― 日本統治期の「台湾料理」の誕生 35
   はじめに 台湾料理―命名された他者 36
   第 1 節 台湾料理の登場 37
   第 2 節 日本統治期のレストランにおける食の消費 50
      1  料理屋と飲食店 50
      2  台湾料理、日本料理と西洋料理 53
   第 3 節 台菜の文化パフォーマンス ― 「支那料理」から「台湾料理」へ 61
      1  大型レストランの勃興 61
      2  江山楼の「台湾料理」論 65
      3  蓬莱閣(一九二七 ― 一九五五)の登場と影響 71
   おわりに 植民地料理のパフォーマンスと変形 78
   注 80

第 3 章 古来の台湾の味 ― 庶民の食卓 87
   はじめに 台菜の文化パフォーマンスと生活の実践 88
   第 1 節 台湾人の家庭料理 89
      1  主食と副食 90
      1  主食:サツマイモ、米と雑穀 90
      2  副食 93
      1  野菜と漬物 93
      2  肉類と水産物 98
      2  調理と味付けの方法 102
      1  調理方法 103
      2  調味法 108
      3  一九五〇年代以前の台湾家庭における日常の料理 111
      1  土地の食材を主に食べる 114
      2  漬物を活用した料理 115
      3  シンプルな調理法、塩からい味付け 115
      4  節句料理の再利用 116
      4  ベジタリアン文化 116

   第 2 節 一般大衆の宴席 ― 節句や慶事の食物と?? 118
      1  節句や慶事の食物 119
      2  ?? 126
      1  プロのスタッフ不在の人脈による協力 129
      2  人的ネットワークを総動員 130
      3  油脂、肉類の多い豪華な料理 131
      3  小結 ― 公共パフォーマンス性を備えた生活の実践 135
   第 3 節 日常の点心と街角の軽食 138
      1  点心 138
      2  街の軽食と夜市の形成 145
      3  日本式点心 150
   おわりに―民間の「台湾菜」 152
   注 154

第 4 章 移植と混交 ― 戦後書き換えられた飲食地図 163
   はじめに 国家、移民と食物 164
   第 1 節 戦後の激変 ― 経済の困窮と節約運動 168
   第 2 節 反共復国思想のもとでの消費管理 ― 酒家と公共食堂 184
      1  人力と金銭資源の徴用 190
      2  料理組合の役割 194
   第 3 節 移植された中国の味 ― レストラン、市場と眷村の飲食 198
      1  中国各地の地方料理レストランの集中 199
      2  政府宴席の代表 ― 圓山大飯店 205
      3  軽食屋台と市場 208
      4  眷村と「眷村の味」 212
   第 4 節 新しい地図と新しい階層 ― 「中国菜」の混交と現地化 216
      1  傅培梅のレシピにおける「中国料理」の再現 217
      2  一九六〇年代以降の新興台菜レストラン 224
      1 .日本統治期の酒楼文化を踏襲したもの 224
      2 .粥と小皿料理 225
      3  戦後の料理系統の混交のもとで生まれた新たな「台菜」 230
   おわりに 戦後中華料理の周縁的一系統となった「台菜」 234
   注 238

第 5 章 エスニシティ、階級と飲食「伝統」の創造 253
   はじめに 現代の「台湾菜」が意味するものの変化 254
   第 1 節 「四大族群」論と「客家料理」、「先住民料理」の興り 260
      1  先住民料理 ― 自然と無垢の神話 263
      2  客家料理の興り ― 伝統と階級のせめぎ合い 271
   第 2 節 国宴における族群の象徴 284
      1  国宴の変化 284
      2  「国宴下郷」政策 293
      3  「台湾小吃」の形成と「台湾菜」の意味の発展 299
   おわりに 台湾化路線に育まれた「台湾小吃」 304
   注 308

第 6 章 台湾菜と「故郷の味」 ― 家および文化的記憶の変遷 315
   はじめに―飲食エクリチュールにおける個の記憶と集団の記憶 316
   第 1 節 「故郷の味」のコミュニケーション的記憶から文化的記憶へ 318
      1  「故郷の味」とはなにか 318
      2  コミュニケーション的記憶から文化的記憶へ 322
      3  台湾の現代飲食文学における「故郷の味」 328
   第 2 節 唐魯孫と? 耀 東―家庭の味に対する追求 334
      1  台湾において北平の故郷を懐かしむ唐魯孫 334
      1  文化的記憶として描かれた中国の飲食の伝統 334
      2  離散 ― 家、国と文化的記憶の喪失 343
      2  ? 耀 東―中国、香港、台湾における故郷の味の喪失と再建 348
      1  流浪の中で失われた「故郷の味」 348
      2  台北で改めて再現された( re-staged )「故郷の味」 353
   第 3 節 家の身体実践 ― 林海音の飲食エクリチュールにおける調理と食 361
      1  林海音の飲食エクリチュール 361
      2  「良い食事」の生産者 ― 家庭の料理 364
      3  「第一の故郷」の再認識 ― 台湾の飲食を紹介 374
      4  二重の離郷者の「故郷の味」 378
   おわりに 「故郷の味」の再定義―文化的記憶が定着する場所 387
   注 392

第 7 章 結論 ガラスの容器のなかの台湾菜 403
      1  「国民料理」の三つの特徴 ― 関係性、パフォーマンス性、商品性 405
      2  食物消費における「国民料理」の誕生 408
      3  「国民」という境界線の流動と個体の感受性(sensibility) 409
      4  ガラスの容器のなかの台湾菜 412
   注 416

解説 岩間一弘 417
訳者あとがき 434
引用文献 436
事項索引 465
人名索引 468